【役者・吉田美月喜×監督・まつむらしんご】映画『あつい胸さわぎ』描いた千夏とリンクした千夏2人のDOERが出逢った18歳のひと夏

役者・吉田美月喜×監督・まつむらしんご

映画『あつい胸さわぎ』
描いた千夏とリンクした千夏
2人のDOERが出逢った18歳のひと夏

子供と大人の境界線、愛されることと愛することの境界線、微々たるふり幅でずっとぐらつき続けるのが、きっと〈人〉と〈愛〉の共通点。そのぐらつきがピタッと止まってしまったら、私たちは生きていけない。何か試練に立ち向かう時、自分自身と闘う時、声にならない応援が、目が合うことはない見守りが、あなたの背中を支えている。そんな、人と人との関係を愛くるしく描いた、いくつになっても生まれ出てくる“あつい胸さわぎ”のお話。

監督・まつむらしんご

第 31 回ぴあフィルムフェスティバルに入選後、 早稲田大学大学院に進学。『ロマンス・ロード』が 2013年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭長編コンペティション部門SKIPシティアワードを受賞、第18回釡山国際映画祭アジアの窓部門に正式出品される。2017年『恋とさよならとハワイ』は大阪アジアン映画祭 JAPAN CUTS Award、上海国際映画祭アジア新人賞部門【脚本賞 ・撮影賞】受賞。台北金馬映画祭NETPAC賞にノミネート他、台湾では 3都市で劇場公開される。

映画『あつい胸さわぎ』

映画『あつい胸さわぎ』

港町の古い一軒家に暮らす武藤 千夏(吉田 美月喜)と、母の昭子(常盤 貴子)は、慎ましくも笑いの絶えない日々を過ごしていた。小説家を目指し念願の芸大に合格した千夏は、授業で出された創作課題「初恋の思い出」の事で頭を悩ませている。千夏にとって初恋は、忘れられない一言のせいで苦い思い出になっていた。その言葉は今でも千夏の胸に“しこり”のように残ったままだ。だが、初恋の相手である川柳 光輝(奥平 大兼)と再会した千夏は、再び自分の胸が踊り出すのを感じ、その想いを小説に綴っていくことにする。一方、母の昭子も、職場に赴任してきた木村 基晴(三浦 誠己)の不器用だけど屈託のない人柄に興味を惹かれはじめており、20年ぶりにやってきたトキメキを同僚の花内 透子(前田 敦子)にからかわれていた。親子ふたりして恋がはじまる予感に浮き足立つ毎日。そんなある日、昭子は千夏の部屋で“乳がん検診の再検査”の通知を見つけてしまう。娘の身を案じた昭子は本人以上にネガティブになっていく。だが千夏は光輝との距離が少しずつ縮まるのを感じ、それどころではない。「こんなに胸が高鳴っているのに、病気になんかなるわけない」と不安をごまかすように自分に言い聞かせる。少しずつ親子の気持ちがすれ違い始めた矢先、医師から再検査の結果が告げられる。初恋の胸の高鳴りは、いつしか胸さわぎに変わっていった……。

役者・吉田美月喜×監督・まつむらしんご

オーディション〆切ギリギリに届いた
“運命のプロフィール”

LANDOER:オーディションで千夏役を掴まれた吉田さん。オーディション時、印象的だったことはありますか?

吉田美月喜(以下、吉田):時間をかけて自分の話を聞いてもらえるオーディションが少ない中で、監督は初めてお会いした時から、私自身の話をたくさん聞いてくださって。それがすごく嬉しかったのを覚えています。

LANDOER:どういったお話をされたんですか?

吉田:「千夏が私と似すぎているので、是非やりたいです!」といったお話をさせていただきました。台本を読んだ時から、千夏とリンクする部分がたくさんあったんです。

まつむらしんご監督(以下、まつむら監督):僕が千夏役を選ぶうえでの一番の選考ポイントは、“大人たちに愛される子”であることだったのですが、彼女にはそれがあった。周りに「この子を一人にしてはいけない」と思わせる魅力があったんです。

LANDOER:それはオーディションでお会いされた時に、直感的に感じられたんですか?

まつむら監督:お会いするよりも前に感じていたかもしれないです。ちょうどコロナ禍でのオーディションだったこともあり、会場に集まってもらうのではなく、僕のほうから会いに行く形式だったのですが、すでに他の候補者の方がいた中で、ギリギリに吉田さんのプロフィールが届いたんです。それを見て「すぐに会いたい」と思って、真っ先に吉田さんに会いに行きました。その日に「この子だ」と感じて、千夏役をお願いすることにしました。

吉田:本当にびっくりしました。お話した後に「吉田さんだけ席を外してください」と言われて、外に出たんです。そんなこと言われたら、めちゃくちゃ気になるじゃないですか(笑)!

まつむら監督:あはは(笑)。現実的な話をしていたんだよ。スケジュールが空いているか、とか。

吉田:ドキドキしながら待っていたら、マネージャーさんに「監督が帰られるから挨拶しよう」と言われ、また部屋に戻ったんです。そこで「千夏、よろしくお願いします」と言われて。あまりに突然のことで、何が起きたのか分からなかったのですが、徐々に実感が湧いてきて「こんなに運命的な作品の決まり方があるんだ」と、すごく嬉しい気持ちになりました。

まつむら監督が求めた『武藤千夏』

LANDOER:『あつい胸さわぎ』は、監督が原作となる舞台を観て映画化を決めた、とTwitterで拝見したのですが、その時点で『千夏』というキャラクターにどんなイメージを抱かれていましたか?

まつむら監督:映画化に際しての僕の最重要テーマは「決して明るい題材ではないけれど、最後に希望を持てる映画にしたい」ということ。そのためには、千夏が絶対的に“強い子”でなければならなかったんです。いろいろな試練に向き合う中でも、「この子だったら負けずに、悩みながら苦しみながらもちゃんと生きていける」と、こちら側に確信させてくれる女の子をイメージしていました。

LANDOER:吉田さんと千夏のイメージがピタッと合ったんですね。

まつむら監督:そうです。「目が強いな」と。これは完全に天から与えられるものなのですが、俳優は〈目〉と〈声〉が大切だと僕は思っているんです。演技力は経験さえ積めばどうにかなるけれど、この2つだけはどうにもならない。吉田さんはその2つの条件を完璧にクリアしていました。加えて、千夏に必要な“大人でもない、子供でもない境界線”の揺らぎを表現できる要素も揃っていたんです。

LANDOER:良い意味で繊細なぐらつきがあったんですね。

まつむら監督:天真爛漫で子供のような明るい部分と、大人になってしまった暗い部分、どちらも持っている子を探してたので、すぐに吉田さんに決めました。

今の『女優・吉田美月喜』だったら
受かっていなかった!?

まつむら監督:今の吉田さんがオーディションに来ていたら、絶対に受かっていないです(笑)。

吉田:えぇ(笑)!?

まつむら監督:今はもう、洗練されちゃってるからね(笑)。オーディションで会った時、「どこで買ったんだ?」というトレーナーを着ていたんです。普通であれば「受かりたい!」と思って、精一杯のおしゃれをしてくるじゃないですか(笑)。

吉田:あれがあの時の私にとっての精一杯だったんです(笑)!

まつむら監督:でも、そのおかげで信用できたんだよ(笑)。この世界にいると、各分野のプロフェッショナルたちがいるから、どんどん洗練されていく。それは良いことだけれど、今回僕が撮りたいと思っていた子は、そういう子じゃなかったんです。まだまだ手付かずの方の千夏が見たかったんですよね。

吉田:なるほど…じゃあ、あのトレーナーは良い選択だったんですね。良かった~(笑)。

吉田美月喜とリンクした『武藤千夏』

吉田:初めて今回のお話を聞いた時、乳がんを題材とした作品だと聞いて「ちょっと暗い話なのかな」と思ったことを覚えています。ただ、台本を読んでみたら、イメージと違っていて驚きました。読んだ段階では、監督がどんな千夏をイメージされているのかまでは分からなかったのですが、とにかく千夏と似ている部分がたくさんあったんです。

LANDOER:その思いがオーディションでも溢れたんですね。

吉田:はい。「似ているところをたくさんお話したい!」と思って、ポジティブな気持ちでオーディションに挑みました。

LANDOER:実際に撮影が始まり、千夏を演じてみていかがでしたか?

吉田:いざ現場に入ると、似ていると感じる部分は変わらなかったのですが、それ以上に演技をしている自分に対する不安が多くて。まだ自分の演技を客観視できていないこと、周りから見た時にどんな風に見えているのかが分からないこと、その2つが不安を感じる大きな理由だったと思います。監督はそんな私の不安を汲み取ってくださったのか、言葉で「今のちゃんと親子に見えていたよ」や「この感じでいって大丈夫」と伝えてくださったんです。

LANDOER:吉田さんの抱えていた不安に対して、一番欲しい言葉ですよね。

吉田:そうなんです。おかげで安心してお芝居をすることができましたし、監督にそう言っていただけたことがすごく嬉しかったです。初めて撮影する主演作がまつむら監督で本当に良かったと思います。

役者・吉田美月喜×監督・まつむらしんご

監督×役者×スタッフが共に戦った一本

まつむら監督:吉田さんが良い演技をされることは、どこか確信があったので不安に思ってはいなかったのですが、ただ、初主演ということに対して、僕自身も意気込んでいた部分があっり、クランクインの時に吉田さんに「一緒に戦ってください」という言葉をかけたんです。もしそれがプレッシャーになってしまっていたら…と、後々反省しました。ただ、このプロジェクト自体はたやすいことではないですし、そのセンターに立つことに対する覚悟は持っていて欲しいと思ったんですよね。

吉田さん:私は、撮影期間中本当に楽しくさせていただいていました。監督はもちろん、スタッフさんたちもとても素敵な方々で、メイキング映像を観た時に「本当に仕事か!?」と思うほど笑っていて(笑)。ただ撮影後に、実は裏でいろいろなトラブルが起きていたことを知り、私が芝居だけに集中できるように、監督たちが守ってくださっていたのだと感じてすごくありがたかったです。

まつむら監督:僕だけでなく、みんなで戦って撮りきった現場でした。

撮影を経て、お互いに聞いてみたいこと

吉田:聞いてみたいことか…何だろう…。すごく近い距離で撮影をさせてもらっていたので、割といろいろとお聞きしてはいるのですが、ひとつご質問するとすれば…「私の千夏役はどうでしたか?」ですかね。

まつむら監督:完璧でしたよ。上手いとか下手といった感想ではなく、「あ、この子が千夏なんだな」と思わせてくれる千夏でした。撮影中も確信を持ちながら撮っていましたね

LANDOER:監督と吉田さん、千夏と吉田さん、その双方が運命的な出会いだったんですね。

まつむら監督:そうですね。僕から聞きたいことは「この撮影を経て何を思ったのか」かな。クランクインからクランクアップまで2週間ほどの撮影期間だったのですが、インの時とアップの時、俳優としての存在感がまったく違ったんです。彼女の中でどういった変化があって、それが形として現れたのかを知りたいな、と。

吉田:この作品は千夏の18歳の夏の話なのですが、撮影時は私にとっても18歳の夏だったんです。オーディションなどで上手くいかないことが続いて、今後どうしていけばいいか分からなくなっていた時にこの作品と出会って。新たな課題がたくさん見つかる現場だったけれど、純粋に、これから俳優を続けていく〈勇気〉をもらうことができた現場でもあったんです。それが大きな変化だったと思います。人生で一度しか経験できない主演映画、しかも監督がおっしゃった「この映画を映画祭に連れて行きたい」という言葉の通り『国際映画祭』にも連れて行っていただいて。監督の有言実行される姿にも〈勇気〉をいただきました

LANDOER:どんどんと出てくる課題を考えて、それを乗り越えて撮りきったことも、さらに進んでいこうとする〈勇気〉に繋がりますよね。

吉田:本当にそうです。もう、監督はお父さんのような存在です。

まつむら監督:僕はだいたい“吉田のお父さん担当”なんで(笑)。

吉田:あはは(笑)。私の人生において、本当に出会えてよかった方です。

役者・吉田美月喜×監督・まつむらしんご

Dear LANDOER読者
About 映画『あつい胸さわぎ』
From 役者・武藤千夏役/吉田美月喜

作中で千夏はいろいろな困難や青春の悩みにぶつかっていくのですが、中途半端ではなく、思いっきりぶつかりきるんです。それは、彼女の周りにたくさん〈愛〉をくれる人たちがいたから守ってもらえるからこそ、真剣にぶつかっていける。完成した作品を観てそんな想いが残りました。それぞれに持っているコンプレックスや、人には言えないようなことがあっても、周りの人から「見捨てられない」「ずっと愛してもらっている」「見守ってもらっている」という確信が、生きていくうえで大きな支えになると思うので、そういった周りの人のあたたかさを映画を通して感じていただきたいと思います。

役者・吉田美月喜×監督・まつむらしんご

From 監督・まつむらしんご

「若年性乳がん」を題材に扱っている作品ではあるのですが、それだけではなく、18歳の女の子が様々な試練に向き合って、一つひとつに立ち向かうお話でもあります。親子関係だったり、恋だったり、誰しもが経験する人生の試練を乗り越えていく、一人の少女の成長物語としてこの映画を観ていただけたら嬉しいです。

吉田美月喜

吉田美月喜(19)

よしだ みづき

2003年3月10日生まれ。
向けられた〈愛〉を大切に受け取り、
喜びを惜しむことなく表現できる真っすぐなDOER

映画『あつい胸さわぎ』
2023年1月27日(金)公開

出演:吉田美月喜 常盤貴子
   前田敦子 奥平大兼 三浦誠己 佐藤緋美 石原理衣
監督:まつむらしんご
原作:戯曲『あつい胸さわぎ』横山拓也(iaku)

映画『あつい胸さわぎ』

Staff Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:田中陽子(Yoko Tanaka)
スタイリスト:岡本純子(Junko Okamoto)
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:古里さおり