【伊藤あさひ】ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』怜悧な青年・マーキューシオが【憎しみ】のフィルター越しに伝え続けた、仲間たちへの純粋な〈愛〉

伊藤あさひ

ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
怜悧な青年・マーキューシオが
【憎しみ】のフィルター越しに伝え続けた、
仲間たちへの純粋な〈愛〉

ゆっくりと人々の心を巣食い、気づいた頃には〝生きる理由〟にまで成り代わる【憎しみ】。大きな力を宿すソレは、世界の至るところに息を潜め、今日も誰かが憎み合い、蹴落とし合うのを楽しんでいる。そんな世界を最期まで恨み、【憎しみ】に身を委ねることの忘我と、縛られることの苦しさを誰よりも味わったマーキューシオ。彼の生き様が舞台上に現れる時、「どうかあなたの〝仲間たちへの純粋な愛〟が、哀しい【憎しみ】に打ち勝ちますように」と、願わずにはいられない――

ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』

ミュージカル 『ロミオ&ジュリエット』

魂を揺さぶる音楽と、原作から更に奥行きを増した珠玉の物語

仇同士の家に生まれながら運命的な恋に落ち、争いの終結を願いながら、ひたむきに互いを愛したロミオとジュリエット——。言わずと知れたシェイクスピアの名作を原作としながら、更に本ミュージカルは〝ティボルトの従妹ジュリエットへの密かな恋情〟〝ロミオに恋人の死をベンヴォーリオが伝える〟といったオリジナルの設定を加え、登場人物の葛藤をより繊細に描き出しました。特に全編を通じて登場する〝死のダンサー〟の存在感は強烈で、これによって愛と死、破壊と再創造といった哲学的テーマを表出させた点も、大きな特長です。そしてミュージカルに絶対不可欠である音楽は、どの楽曲も心と魂を揺さぶる名曲ばかりです。幕開きに歌われる迫力満点の<ヴェローナ>、若者たちの躍動感溢れる<世界の王>、ロミオの心象風景を鋭く描き出した<僕は怖い>、婚礼の場面で歌われる甘く切ない<エメ>(フランス語で〝愛する〟の意味)など、一度聴いたら忘れられない名曲ぞろい。物語と調和した曲に身を委ねることができるのも、この作品の魅力のひとつと言えます。日本では小池修一郎演出により 2010 年に宝塚歌劇団によって初演され、その大反響を追い風に、2011 年に新たに誕生したのが、このミュージカル『ロミオ&ジュリエット』<日本オリジナルバージョン>です。その後、上演の度に大きな注目を集め、2017 年には演出を一新し更なる反響を得て、2021 年以来 3 年ぶりに上演中です。

―マーキューシオ—

ロミオの友人でヴェローナ大公の甥。

初ミュージカル × 伊藤あさひ

自分は舞台上で何を感じられるのか、どういった調整が必要なのか、何も分からない状態でむかえた初ミュージカルの初日、とにかく『マーキューシオ』として走りきることで精いっぱいでした。もちろん稽古はたくさんしていたものの、役衣裳を着て、完成されたセット・舞台上で演じるとなると、稽古とはまた違う緊張感があって。そこから、東京、愛知公演と回を重ねるごとに、公演期間中の個人的な目標である“一生懸命に演じつつ、冷静にお芝居の間合いを見て演じること”を、達成できるタイミングが増えてきた気がします。

芝居中に他のキャストの方々と
遊びを含めるようになったりも?

そうですね。ほぼすべてのキャストが出演している仮面舞踏会のシーンでは、歌やダンスがない分、ベンヴォーリオとふざけ合ったり、ティボルトにパントマイムで威嚇してみたり、自分なりに表現しています。彼らの若々しい雰囲気や、仲の良さが出たらいいな、と。

ミュージカル 『ロミオ&ジュリエット』
©ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』公演事務局【撮影:渡部孝弘/田中亜紀】

あれだけの人数のキャストの
それぞれのお芝居を一気に観ることができるのは、
舞台ならではだと思います。
どのくらい立ち居振る舞いが
決められているものなのでしょうか?

キャラクター一人ひとりの動線は決まっているのですが、一組のキャストがメインのお芝居を行っている時に、その他のキャストたちがそれぞれの動線の先で何をするのかまでは細かく決められていません。稽古中に「こんなことをしたら、ベンヴォーリオとの仲の良さを出せるかな」、「どうやってティボルトを煽ろうかな」などと考えて、キャストの皆さんとお話をしながらつくっているアクションもあります。

そのお話を聞くと、
より一層、舞踏会のシーンが楽しくなりますね。
Wキャストの方、
それぞれが演じる役の印象はいかがでしょうか?

ロミオ役の小関(小関裕太)さん、岡宮(岡宮来夢)さんは、プライベートでも“マーキューシオから見たロミオ”のような眩しさがあって、話すのも緊張してしまうような存在です。僕がつくってきたマーキューシオは、ロミオに対して、自分との解離や、友情を越えた憧れを抱いているので、ロミオ役のおふたりと2人きりになった時、何をお話すればいいのか分からないほど緊張してしまうんです…(笑)。お芝居について褒めてくださった時も、本当はものすごく嬉しいのに、何だか照れてしまって「ありがとうございます」としか言えない自分がいました(照笑)。

伊藤あさひ

マーキューシオが顔を出すんですね(笑)。
ベンヴォーリオ役の内海啓貴さん、石川凌雅さん、
ティボルト役の太田基裕さん、
水田航生さんはいかがですか?

ベンヴォーリオ役のおふたりは普段から本当に優しくて、“友達のお兄ちゃん”のような存在です。僕は役柄的にもベンヴォーリオと話すことが多いので、キャストの中で一番お話させていただいている気がします。対するティボルト役のおふたりは、“親戚のお兄さん”のような存在。おふたりとも劇中のキャラクターとまったく違って親しみやすく、本番前に「あさひ、ちょっと一緒に(殺陣)合わせようよ」と話しかけてくださったり、メイクを教えてくださったり、ティボルトとマーキューシオの関係からは想像もつかないほど、可愛がっていただいています。

素敵なカンパニーの雰囲気が伝わってきます。
マーキューシオのメイクには慣れましたか?

だんだんと慣れてきました。これまで自分でメイクをした経験がほとんどなかったので、最初はアイラインを引くことも、眉毛を描くこともまったくできなくて。一度、眉毛を2㎝ほどの幅で描いてしまった時に、キャストの方やスタッフの方々の間で「あさひの眉毛が2㎝になってる!」と、噂がまわっていてすごく恥ずかしかったです(笑)。

可愛らしいエピソードですね(笑)。
これまでの多くの技法で描かれてきた
『ロミオとジュリエット』ですが、
本作ならではの魅力は何だと思われますか?

稽古に入る前は「ロミオとジュリエットの愛の物語がメインだな」と思っていたのですが、いざマーキューシオを演じてみて思ったのは、この作品は “青春群像劇”でもあるということ。若者たちの強さや、何にも囚われることのない爆発力など、そういったものが色濃く描かれていると感じましたし、彼らのパワーが観てくださる皆さんにも伝わったらいいな、と思います。

伊藤あさひ

若者たちの強さが描かれている一方で、
大人の憎しみを受け継ぐように
育ってきたマーキューシオ。
自身の憎しみではない感情を、
どのように分析されましたか?

最初はシンプルに、自分の中に『モンタギュー VS キャピュレット』の構図を落とし込もうと思いながら演じていたのですが、マーキューシオに触れていくにつれて「あれ?意外にマーキューシオ自身はその構図を気にしていないのかも?」と、思いはじめたんです。そこからは僕なりに考えて、「自分が演じるならこうしたい」と思うマーキューシオをつくっていきました。僕が感じたマーキューシオは、賢いがゆえに、人間の良くない部分や大人たちの考え方が、他の人よりも分かってしまう青年。キャピュレット家への憎しみよりも、彼のその鋭い感覚を深めていったほうがより魅力的になる気がしたんです。マーキューシオ自身がキャピュレット家を憎んでいるわけではなく、親友であるロミオとベンヴォーリオの家のために、意識的にキャピュレット家への憎しみを自身で生み出しているんじゃないかな、と。そう考えると、マーキューシオの言葉がだんだんと裏返しの意味に聞こえてきて。

理由のない憎しみを自身で生み出すこと、
体力のいる、苦しいことのように思います。

マーキューシオの楽曲『マーキューシオの死』の中に「俺は恨む お前の家を モンタギューとキャピュレット」という歌詞があるのですが、これまでのマーキューシオ役の方の映像を観ると、「キャピュレット」を強調して叫んでいる方が結構いらして。ただ、僕が考え続けてきたマーキューシオだったら、モンタギューとキャピュレット、どちらの家名も叫ぶと思ったんです。両者の名前を叫びながら、彼が本当に憎んでいるのは、変わらないこの世界であり、社会なんだろうな、と。

伊藤あさひ

その憎しみが『マーキューシオの死』で
さらけ出されているんですね。
初ミュージカル、
歌唱・ダンスの稽古はいかがでしたか?

演出家の小池(小池修一郎)先生に、本当にたくさん指導していただきました。舞台に立ってお芝居をすること、歌うこと、表現、すべてをゼロからたたき込んでいただいた稽古期間だったと思います。(小池先生と)高校・大学が同じ学校だったこともあり、そういったお話をしながら、とても親身になって演出をしてくださって。加えて、本作は歌だけでなくダンスシーンも多いのですが、ダンス初心者の僕は、まず、どこを見ながら踊ればいいのかすら分からなかったんです。振付助手の方にその質問をしたら「そんな質問をされたのは初めてだよ」と、笑って教えてくださいました(笑)。

とても初めてとは思えないシーンになっていました。
ミュージカルならではの
表現の難しさもあったのでは?

正直、舞台に立つまでは、自分にミュージカルが本当にできるのか分からなかったんです。稽古がはじまり、いざお芝居をしてみても、自分が思い描いている表現では観ている方には伝わらない部分が多く、本当にトライ&エラーの毎日で。これまで経験してきた映像作品と違って、舞台では表情の寄りや目の寄りを見せることができないので、心に湧いたものを秘めることなく、素直に身体で表現する必要があるのですが、その表現自体、僕にとっては初めての挑戦。稽古・公演を通して少しずつ舞台上での表現ができるようになってきて、ちょうど今、楽しめるようになってきたところです。まだ公演は終わっていないのですが、初日に比べると「(ここのお芝居は)もっとこうしたいな」と、表現への欲が出てくることも増えてきて、ちゃんと舞台に立てていることを実感します。改めて、舞台の世界で表現をされている方々を尊敬しましたし、お客さまを意識してお芝居することを学びました。

伊藤あさひ

Dear LANDOER読者
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
From 伊藤あさひ

まず、東京・愛知公演を観劇いただいた皆さまへ。人生で一度しかない僕の初ミュージカルを、皆さんと同じ空間で作ることができて、僕自身とても大きな一歩が踏み出せたと思います。現在(いま)の伊藤あさひにしか表現できないマーキューシオを、皆さんに観ていただけたことが本当に嬉しいです。そして、大阪公演へ来てくださる皆さんには、公演を重ねるにつれてどんどんと変わってきているマーキューシオをお見せできたらいいな、と。毎日何が起こるか分からないのが舞台ですし、僕自身、この先どうなっていくのか分からない部分もあるのですが、公演期間中に感じた、自分の“幅の広がり”を表現に落とし込んでいけるよう、最後までマーキューシオを磨いていきたいと思います。長い公演期間、毎日思うのは「『ロミオ&ジュリエット』には、自分の人生や価値観とどこかリンクする部分がある」ということ。それはきっと、僕だけでなく観てくださる皆さんも同じはず。自分の人生、価値観に響くところを感じ楽しみながら観ていただけたらいいな、と思います。

伊藤あさひ

伊藤あさひ

いとう あさひ

1月19日生まれ。
そっと見守り、時に手を差し伸べる“真の温情”が、
朝日のように人の〈想い〉を照らすDOER

ミュージカル 『ロミオ&ジュリエット』

ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
大阪公演:2024年7月3日(水)~7月15日(月・祝)

原作:ウィリアム・シェイクスピア
作:ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演:小関裕太/岡宮来夢、
   吉柳咲良/奥田いろは(乃木坂46)ほか
チケットの詳細は公式HPにて

Staff Credit
カメラマン:田中丸善治
インタビュー・記事:満斗りょう
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