【石井杏奈】舞台『SHELL』挑戦のたび、自分の新たな〈顔〉と出逢う持ってゆく武器は「芝居が好き」その想い、ただひとつ

石井杏奈

舞台『SHELL』
挑戦のたび、自分の新たな〈顔〉と出逢う
持ってゆく武器は
「芝居が好き」その想い、ただひとつ

私たちにはいくつもの〈顔〉がある。幼かった頃は、自分の理想とするいちばん好きな〈顔〉を追いかけ、時に無理をしてでも貫こうとしていた。しかし、だんだんと時が経ち、いろいろなものを諦めなければ、悟らなければ、世界と上手く付き合っていけないことに気づいてからは、自分の好きな〈顔〉より、他者が好む〈顔〉を作り出すようになった。その内側にいる私は少しも納得していないのに。他者に私を認識させるもの、それはここに存在している私なのか、それとも、私の外面を覆う〈顔〉なのか―…。もし明日、自分の〈顔〉が変わったら、あなたはどこへ行くと思いますか?内側にいるあなたが変わったら、自分の〈顔〉は誰のものになると思いますか――?これは不思議にたゆたう、限りなくリアルで、限りなくファンタジーな〈顔〉の物語。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『SHELL』

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『SHELL』

-Story-

倉持裕×杉原邦生、注目の初タッグでお送りする
現代を舞台に特異な人間が存在する不思議な世界を描く、
青春ファンタジー!

とある高校の放課後の教室。そこには生徒の未羽(みう)、希穂(きほ)、咲斗(さくと)と数名の友達たち。彼らは、突然学校に来なくなった松田先生について、そしてこの学校の問題について度々話し合っている。ある日、未羽は通りがかったビルからマネキンが落ちてくる現場に遭遇する。そのマネキンを抱きかかえていたのは中年男の高木だが、未羽には高木でもあり希穂の顔にも見えるという不思議な体験をする。同じ人間がいくつもの<顔>を持っている。それは、一部の者だけが知っている世界だったのだが、未羽にはそれを見抜く力があった。希穂たち以外にも、いくつもの<顔>をもっている人々が分かる未羽。様々な登場人物たちがうごめく中で、顔を見抜けて「絶対他者」を繋げてしまう未羽、顔を持つ人々、そして全く分からない人々との間に、摩擦が生じていく…

-希穂-

とある高校の高校生。いくつかの<顔>を持ち生きている。

石井杏奈

『SHELL』
台本を読んで――

これまでは現実を舞台にした作品に出させていただくことが多かったので、現実世界でありながら、ファンタジー要素も強い今回の物語は「世界観がとても独特だな」と、感じたのを覚えています。1回では理解しきれず、何回も台本を読み返しました。ただ、ファンタジーなのに、登場人物の心情の変化や葛藤にはとても共感できる部分が多く、それがまた不思議で。こういった世界で生きたことはないけれど「すごく分かる」と思えたり、「私だったらこうするな」と自分に置き換えて考えてみたりもして、これまでに感じたことのない新鮮さを覚えました。

台本だけでは掴みきれない
不思議な要素が多い今作。
具体的にどういったところに共感されましたか?

まず、女子高生たちの会話がとてもリアルだなと思いました。彼女たちの輪のなかに、発言がちょっとあべこべな子や、周囲に賛同しがちな子、はたまた「いやそれは違うよ」と異を唱えられる子など、さまざまなタイプの子がいて。ああだこうだと話が繰り広げられる空気感には「女子高生ってこういう感じだよね」と、頷くものがありました。また、私が演じる希穂はとても芯の強い子で、その強さゆえの彼女の立ち振る舞いもとても納得できた部分でしたね。

石井杏奈

今、“女子高生”を演じることに対して、
どんな想いを抱いていますか?

制服を着ることは映像作品の回想シーンなどで何度かありましたが、今回のように最初から最後まで高校生を演じるのはこの作品が最後になるのかな、と思っています。実年齢と役年齢が近ければ等身大で演じることができるのですが、今回はまず「感情を取り戻す」という作業を挟まなければいけないと思っていて。7〜8年で大幅に何かが変わることはないだろうけれど、それでもやはり当時のキャピキャピ感や青春を感じているキラキラした眼差しは、大人になるにつれて忘れていくものだと思うんです。大人ならではの悩みと日々向き合うことが増えている今、リアルな女子高校生感のあるみずみずしい感情を思い出していきたいですね。

女子高生である希穂には、
年齢も性別も全く異なる別の人間の〈顔〉が。
「自分」を多面的に描いているため、
とても複雑な芝居を求められるのではないか
と感じました。

そうですね。台本を初めて読んだときは率直に「分からない」と思いましたが、ただ、個人的には希穂自身も実は分かっていなのではないか、と思っていて。他人が自分のなかで息づいているという感覚はあるけれど、「何だろう、これ?」と、その事象を一旦受け止めるに留めて、あくまで自分の人生を生きているのだと思います。何が起こっているのか分からないからこそ、希穂が葛藤している様子が台本からとても感じ取れました。私自身、確かに「分からない」と思う部分もありましたが、「難しい…」と頭を抱える感じではなかったんですよね。「こんな風に演じられたらいいな」と、希穂の理想像を鮮明にイメージできたので、分からないなりに挑戦してみたい役だと思いました。希穂が持つ他の〈顔〉への疑心暗鬼を薄っすら纏わせながら、不思議な世界観を表現していけたらと思っています。

石井杏奈

石井杏奈

希穂は「芯の強い子」と
先程おっしゃっていましたが、
さらに深掘ると、どんなところに
キャラクターとしての魅力を感じますか?

希穂は女子グループの中で孤立しているわけでもなく、かと言って皆の顔色をうかがって長い物に巻かれるわけでもなく、優しさを持ちつつも自分の意見をしっかり主張できる子。頼りがいがあってちょっと姉貴っぽい、裏ボスのような女の子なのかなと思います(笑)。でも、だからといって親しみやすさがないわけではなく、友達を大切にしてちゃんと向き合おうとする…どちらかと言うと“カッコいい女性”にあたるんじゃないかな、と私は感じました。

作者の倉持さん・演出の杉原さん、
共に今回が初めてのタッグ。
これから始まる稽古への意気込みを教えてください。

私はいままで映像作品でのお芝居がほとんどだったので、舞台に関してはド素人だと思っていて。私がこの作品に持っていける武器は「お芝居が好きだ」という想いだけ。でもこの想いに関しては、根拠はないけれど誰にも負けない自信があるんです。この想いだけをしっかりと抱いて、まっさらな状態で稽古に臨もうと思っています。そこから、稽古を通して自分の芝居に色をつけていただきたいな、と。それが純粋に楽しみです。

これまで、ドラマや映画で
さまざまな〈顔〉を表現してきた石井さん。
今このタイミングで、
舞台に挑戦しようと思ったのはなぜでしょうか?

2年ほど前に初めて舞台を経験させていただいたとき、とても得るものがあって。「自分なんかが舞台に立つことはできないだろう」と、ずっと苦手意識を抱いていたのですが、扉を思いきって開けてみたら、これまで湧き上がってきたことのない感情や新しい発見とたくさん出会えました。そういった経験を経て映像の現場に立ったときに、舞台で得たものが良い作用をもたらしてくれて。視点に変化が生まれたり、テクニック的に声の出し方が変わったりと、舞台経験によって培ったものが自分の中でかなり明確になったので、今回、改めて舞台と向き合ってみたいと思いました。

石井杏奈

舞台から映像の現場に持ち帰ることができたもので、
それまでとの変化を
特に感じたのはどんな時でしたか?

初めての舞台は1人2役の役柄だったのですが、それぞれのキャラクターの怒り方に変化をつけてみようと思い、1人はすごく高い声で怒って、逆にもう1人はすごく低い声で怒って…と、両極端なことを試してみたんです。そうしたら、「2役がまるで別人に見える」とのお声をいただいて。私としても、その舞台で自分の声の振り幅に初めて気づくことができました。高い声で怒ると、かなりヒステリックに聞こえるせいで、サイコパスじみた狂った人間に見える、といった新しい表現テクニックも身につけることができて。あと驚いたのが、公演中、一度も声が枯れなかったんです。どれだけ怒ってどれだけ叫んでも絶対に声が枯れなかったことが、自分の自信に繋がりましたし、その自信が映像にも活きているような気がします。

Dear LANDOER読者
From 石井杏奈
舞台『SHELL』

舞台はお客様に直接届ける“生もの”でもあるので、正直とてもプレッシャーを感じているのですが、初舞台から今に至るこの2年の間、仕事やプライベートで出会ったさまざまな経験、その一つひとつが自分自身に深みを出してくれていると信じています。お芝居に対するアプローチの仕方など、昔と変わっている部分が多くあると思うので、ぜひその変化を見届けていただきたいです。

石井杏奈

石井杏奈

いしい あんな

7月11日生まれ。
“芝居”への慥かなリスペクトを研鑽に繋げ、
自身の〈好き〉に確信と誇りを息づかせるDOER

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『SHELL』

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『SHELL』
KAAT神奈川劇場<ホール>


2023年11 月11日(土)~11月26日(日)
ほか、京都公演あり。
詳細スケジュール(https://www.kaat.jp/d/shell

作:倉持 裕 
演出:杉原邦生
音楽:原口沙輔
出演:石井杏奈 秋田汐梨
   石川雷蔵 水島麻理奈 成海花音 北川雅 上杉柚葉
   キクチカンキ 香月彩里  近藤頌利 笠島智
   原扶貴子 / 岡田義徳 ほか

Item Credit
英字表記の場合
ワンピース ¥53,900/Y.M.Walts(MARVIN&SONS)
イヤリング ¥24,200、リング ¥30,800
/ 共にLana Swans(SUSU PRESS)
ビーズベスト シューズ スタイリスト私物

<問い合わせ先リスト>
SUSU PRESS 03-6821-7739
MARVIN&SONS 03-6276-9433

Staff Credit
カメラマン:興梠麻穂
ヘアメイク:八戸亜希子
スタイリスト:二宮ちえ
インタビュー・記事:満斗りょう / 小嶋麻莉恵
ページデザイン:古里さおり