【杉野遥亮】 映画『やがて海へと届く』あの日、作品を〝感じた〟自分がこの一本に生きている

杉野遥亮

映画『やがて海へと届く』
あの日、作品を〝感じた〟自分が
この一本に生きている

いま、私が「悲しい」と思った感情は、誰かを「好きだ」と思った感情は、他の人からしてみれば全く別の感情なのかもしれないと思う時がある。同じ時代、同じ場所に立っていたとしても、目の前に立つ人を100%理解することなど100%不可能だ。だからこそ大切な人とは、ほんの少しでも同じ景色を見たいと願い、同じように笑いたいと過ごし、同じように悲しみたいと寄り添う。この物語は一人の“彼女”に触れようとした、それぞれの記憶の紡ぎ。この世に存在する全てが一つではないように、悲しみの佇まいだって決して一つじゃない――

映画『やがて海へと届く』

映画『やがて海へと届く』
©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

-STORY-

ある日突然、親友がいなくなった。
あれから5年――
忘れたくない思い出と、知らなかった彼女の秘密。

引っ込み思案で自分をうまく出せない真奈は、自由奔放でミステリアスなすみれと出会い親友になる。しかし、すみれは一人旅に出たまま突然いなくなってしまう。あれから5年―真奈はすみれの不在をいまだ受け入れられず、彼女を亡き者として扱う周囲に反発を感じていた。ある日、真奈はすみれのかつての恋人・遠野から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。そこには、真奈とすみれが過ごした時間と、知らなかった彼女の秘密が残されていた…。真奈はもう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した地へと向かう。本当の親友を探す旅の先で、真奈が見つけたものとはーー切なくも光が差すラスト、誰しもの心に寄り添う感動作が誕生した。

-遠野敦(とおの あつし)-

すみれの元恋人。消息を絶ったすみれと暮らしていた部屋を引き払い、荷物を処分しようとする。

杉野遥亮

『やがて海へと届く』× 杉野遥亮

お話を頂いて初めて台本を読んだ時に「清々しいな」と感じたのを覚えています。切ないけれど、清々しい作品だな、と。扱っているテーマなど、作品の随所に人の心が通っている作品だと感じて、自分がその作品に参加できるのはありがたいことだと思いました。実はお話をいただくより以前に中川監督(中川龍太郎)の『息をひそめて』というドラマのCMを拝見したことがあって、その映像を「素敵だな」と思って覚えていたんです。今回、台本を読んだ時に真っ先に情景がバーッと浮かんで来て、自分の中に作品が感覚として入ってきたんですけれど、そういった作品は僕にとって新鮮で。そんな、自分にとって新鮮な作品で中川監督とご一緒したいと思ったんです。

監督・中川龍太郎 × 役者・杉野遥亮

遠野に関して監督とは本質的な話をしながら役作りを進めていきました。「遠野はこの事実をどう受け止めていると思う?」と、役者の心情に寄り添って演出してくださる監督の進め方は、とても有難いなと思いました。作品に入る前、本読みの時に初めてお話させていただいたんですけれど、その時になんとなく「変わった方だな」と思ったんです。いろんなことをあえて難しく考えていくような、論理的で哲学的な方だな、と。そう思っているうちにご一緒するのがどんどんと楽しみになっていったのを覚えています。

杉野遥亮

実際に監督との現場はいかがでしたか?

素敵だな、と思ったのは、僕がクランクイン前に描いていたイメージと現場で出てきた表現の変化を監督が柔軟に受け止めてくださること。現場で出てくる流れを見つつ、その都度、監督としてのビジョンも流動的に変化させていたんだろうと思います。撮影中はディスカッションしながら、監督の言葉に応えたいという気持ちでやらせていただいていました。

台本を読んだ時と本編を観た時、
作品から感じる印象の違いはありましたか?

今作に関しては、僕、あまり内容にフォーカスをしていなかったんです。世界観を“感じていた”と言いますか。実際に本編を観た時に、僕がこの作品を通して感じた“切なさ”や“清々しさ”がダイレクトに映像になって映っているなという印象を受けました。ピンポイントに内容を意識して観るというよりは、全体を観て心地よさや切なさを感じていただける総合芸術のような作品になっていると思います。

杉野遥亮

原作者の彩瀬さんが、とあるインタビューで
「遠野くんは真奈の写し鏡」と仰っていました。
杉野さんの演じられた遠野くんは、
真奈の在り方をどう見ていましたか?

演じている時は、真奈の在り方は「違うよ」と思ってそこにいました。遠野でいる時は過去への執着を振り切って「前に進まないと」という気持ちでいたんです。撮影現場では僕自身も遠野のその考えを受け取って演じていたんですけれど、実際に本編を観た時に「遠野はそうあることで、すみれへの気持ちを昇華させようとしていたのかな」ともやんわり思いました。そう考えると、彩瀬さんが仰っている“写し鏡”というニュアンスは映画の遠野にも生きている気がします。

本編を観て、
改めて気づかれたこともあったんですね。

そうですね。自分の演技を客観的に観つつ、遠野の気持ちも客観的に再認識することができました。前に進もうとしている自分を肯定して「これでいいんだ」と言い聞かせながら、気持ちを整理していく遠野、それって実はよくあることだと思うんです。実際の撮影日数は少なかったんですけれど、この作品に参加して、それぞれの前の向き方や登場人物の想いが伝わってきて新たな発見をすることができました。

杉野遥亮

観る人によって
違う感じ方をする作品だと思いました。

杉野さんご自身は演じてみて、観てみて、
何かこの作品から考えたことはありましたか?

演じるという面においては、この作品をやっている途中に「演じるってどういうことだろう」と思うことがあったんです。人のどの部分を描いて、どの部分を表現すればいいんだろう、と。作中には描かれていない部分を自分はどこまで頭の中に入れておけばいいのか、と考えたり…。ちょうど“役を作る”ということに迷った時期でもあったんです。「いま僕の目の前で話しているこの人は、本当にこの人自身の姿なのだろうか」などと考えていて。そんな時にたまたま美輪明宏さんのYouTubeが流れてきて、その動画のタイトルが「目に見えない物は見なさんな」というタイトルだったんです。それを見て「わ~、その通りだな」と思って。それは、この作品を観ても思いました。

特に遠野くんは作中で多くを語らない人ですもんね。

そうなんです。だからこそそこが難しかったです。台本だけでは遠野がどこまで自分の本質や本音を見せているのかが判らなかったんです。ずっと自分を守りながら話しているイメージもありましたし。遠野自身を読み解くのが難しかったからこそ、現場では対、真奈や対、すみれを考えて彼を作っていくようにしていました。それでも遠野はなかなか見えてこない人でした。

杉野遥亮

Dear LANDOER読者
about『やがて海へと届く』

撮影をしていた当時の自分が映し出された作品になったな、と思います。もちろん作中で生きているのは遠野という青年なのですが、僕としては、「この時はこんなスケジュールだったな」とか「遠野の考えていることに近づくためにいっぱいいっぱいだったな」と、その時を生きた自分が役の中に存在していたり、反映されていたりするな、と感じる作品になりました。遠野って真奈に対しては冷静にいろいろと言っているけれど、実はいっぱいいっぱいな人だったんです。そんな風に“遠野敦”のことを深く考えたことで、遠野自身の層が厚くなって魅力的なキャラクターになっていたら、役者として僕が演じた意味を感じることができます。撮影当時、2021年の4月を生きていた杉野遥亮を切り取っていただいた作品になっているので、僕としては感謝のこもった作品になりました。

杉野遥亮

杉野遥亮(26)

すぎの ようすけ

1995年9月18日生まれ。
杉のように軽やかな温かさで〈和〉を成す人柄、
積み重ねた経験を無二の木目として自身に刻み続けるDOER

映画『やがて海へと届く』
2022年4月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

出演:岸井ゆきの 浜辺美波
   杉野遥亮 中崎敏
   鶴田真由 中嶋朋子 新谷ゆづみ/光石研
監督・脚本:中川龍太郎
原作:彩瀬まる「やがて海へと届く」(講談社文庫)
脚本:梅原英司

映画『やがて海へと届く』
©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

Item Credit
トップス:UJOH / ウジョー/39,600-
ボトムス:UJOH / ウジョー/47,300-

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渋谷区神宮前3-18-25
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Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:後藤泰(OLTA)
スタイリスト:Lean Lee Lim
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華