映画『ミーツ・ザ・ワールド』
誰かと出逢うことは、〝わたし〟の扉を開けること
心惹かれる〝あの人〟の引力を紐解く
由嘉里とアサヒのスペシャル対談
私のなかに現れた、あの人のカタチをした場所。生まれてこのかた、見たことも、触れたこともない異質で異彩なその場所は、新たな世界との出逢いを意味していた。未知への警戒心を超えて、なぜか心は急速にあの人に惹かれてゆく。それはきっと、こんな出逢いを待ちわびていたから。人に出逢い、喜び、悲しみ、幾度も性向を変えてきた 〝いまのわたし〟。そんな〝わたし〟だからこそ、出逢える世界がある⸺そう思えば、過去も現在も、この先の未来も、なんだか少し好きになれそうじゃない?分かり合えなくたっていい。もっともっと、ミーツ・ザ・ワールドを愛していこう。
映画『ミーツ・ザ・ワールド』

-Introduction-
歌舞伎町を舞台に、新たな出会いが導く世界を描いた
現代版“不思議の国のアリス”
生きづらさを抱えるすべての人に贈るマスターピース
歌舞伎町を舞台に、擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」をこよなく愛するも自分のことは好きになれない27歳の主人公の新たな世界との出会いを描いた『ミーツ・ザ・ワールド』。 原作は、第35回柴田錬三郎賞を受賞した金原ひとみの同名小説。自著の映画化は、第130回芥川賞を受賞したデビュー作「蛇にピアス」以来、17年ぶりとなる。監督を務めるのは、『くれなずめ』『ちょっと思い出しただけ』などこれまで青春という一瞬の輝きを描き続け、若者から圧倒的な支持を得る松居大悟。初めて“生きること”についての映画に挑み、新境地を開いた。撮影は本作の舞台である歌舞伎町で敢行。この街で生きる人々の居場所をスクリーンに焼き付ける。主人公の由嘉里を演じるのは、『52ヘルツのクジラたち』『片思い世界』「アンメット ある脳外科医の日記」など映画やドラマでの主演作が続き、演技力に定評のある杉咲花。擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」の推しカプに全力で愛を注ぐも、自分を好きになれず、仕事と趣味だけで生きていくことへの不安と焦りを感じる等身大の主人公の姿を体現する。由嘉里が出会う歌舞伎町の住人たちには個性豊かな俳優陣が集結。希死念慮を抱えた美しいキャバ嬢・ライ役には、オーディションで抜擢され、モデル・女優として注目を集める南琴奈。既婚者で不特定多数から愛されたいホスト・アサヒ役には、映画『八犬伝』『はたらく細胞』『陰陽師0』で第48回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、TVや映画の話題作への出演が続く板垣李光人。人が死ぬ話ばかりを書いている毒舌な作家・ユキ役には、蒼井優。すべての人を受け入れる歌舞伎町に寄り添うBAR「寂寥」店主・オシン役を、渋川清彦が演じる。主題歌・音楽を手掛けるのは、クリープハイプ。実写映画では初の音楽担当となる本作で、由嘉里の感情と歌舞伎町の風景に寄り添いながら、心の機微を繊細に描き出す。ある日迷い込んだ未知の世界で、考え方も、生き方も、何もかもが違う、交わることのなかった人たちと出会い、他者を知ることで、自分を知る。違いを受け入れることで、自分を受け入れられるようになる。これは「明日の私がちょっと好きになる」——そんな“わたし”との出会いの物語。生きづらさを抱えるすべての人にそっと寄り添うマスターピースが誕生した。
-Story-
擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」に全力で愛を注ぎながらも、自分のことは好きになれない由嘉里。27歳になって結婚・出産…と違う世界に次々と離脱する腐女子仲間をみて、このまま仕事と趣味だけで生きていくことへの不安と焦りを感じ、婚活を始める。しかし参加した合コンで惨敗。歌舞伎町で酔いつぶれていたところ、希死念慮を抱えるキャバ嬢・ライに助けられる。ライになぜか惹かれた由嘉里は、そのままルームシェアを始めることに。やがて、既婚のNo.1ホスト・アサヒ、人の死ばかりを題材にする毒舌作家・ユキ、街に寄り添うBARのマスター・オシンと出会い、歌舞伎町での生活に安らぎを覚えていく。そんな日々の中でもライのことが気がかりな由嘉里は、かつての恋人との確執が解ければ死にたい感情は消えるかもしれないと考え、アサヒやユキ、オシンに相談する。だが、価値観を押し付けるのはよくないと言われてしまう。それでもライに生きてほしいと願う由嘉里は、元恋人との再会を試みるが―。
三ツ橋由嘉里役 杉咲花
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アサヒ役 板垣李光人


『ミーツ・ザ・ワールド』
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杉咲花 板垣李光人
LANDOER:本作への出演が決まったときの感想を教えてください。
杉咲花(以下、杉咲):何より原作が素敵で、金原先生(金原ひとみ)の世界がもつ引力に夢中になって吸い込まれていきました。由嘉里を演じられることがとても嬉しかったです。松居監督(松居大悟)、プロデューサーの深瀬さん、白石さんのお三方とは、それぞれ別の作品でもご一緒していたので、信頼する皆さんとまた作品づくりができることにもワクワクしました。
板垣李光人(以下、板垣):僕も原作を読ませていただいて、金原さんの描かれるリアリティや生々しさにとても惹かれました。自分たちが生きている世界に対して、「すべてうまくいったね、チャンチャン」では決して終わらない。そんな、“この世界のリアル”をしっかりと描かれているのが素敵だな、と。金原さんとは3年前に一度、番組でご一緒させていただいたのですが、作品のみならず、ご自身もとても面白くて素敵な方で。今回、金原さんの作品に役者として携わる機会をいただけて、とても嬉しかったです。

人の矛盾性に素直な由嘉里、
器用のベールに隠れて実は不器用なアサヒ、
人間味に満ちた愛おしい二人の築き
LANDOER:由嘉里とアサヒ、それぞれの役を築くうえで考えたこと、大切にしたことはありましたか?
杉咲:由嘉里は、周囲の人たちから“自分が思い描く生き方や、好きなものからは離れたところにある価値観”を押しつけられてしまい、抑圧されてきた人。一方で、自分とは対極にいる人に出会ったとき、今度は彼女自身が相手に価値観を押しつけてしまうんです。自分にとっては嫌なことでも、人のこととなると考えられなくなってしまう。そんな矛盾が、原作にはとても生々しく描かれていて。登場人物それぞれが内包する“人間の複雑さ”こそが、この映画の面白さに繋がると感じましたし、私自身も一生活者として考えさせられました。
板垣:僕は原作を読んだとき、アサヒのことがとても愛おしくなったんです。たくさんの荷物を抱えているけれど、上手に持ちきれていない感じ…といいますか、器用そうなのにすごく不器用なところが愛おしくて。突っ走り気味の由嘉里をなだめる姿を見ると、一見ちゃんとしているように感じるかもしれないけれど、実はポンッと押したらすぐに崩れてしまうほどの“脆さ”をもっている人でもあるんですよね。たくさんの荷物を抱えながら、きちんと立っているように見えて、片足で立っている。演じるうえで、そういった“アサヒの人間味ある愛らしさ”を大切にしていました。

強く輝くエネルギーと、
その傍らで生まれる冷静な愛着
惹かれ合う由嘉里と夜の住人たち
LANDOER:先ほど杉咲さんは、「一生活者として考えさせられた」とおっしゃっていましたが、具体的にどのようなことを考えられたのか教えてください。
杉咲:一番印象に残っているのは、死生観についてですかね。相手にどんな事情があろうと「私はあなたに生きていてほしい」と、他者とのあいだにある境界線を超えていく由嘉里の強さ——そして、その強さゆえの視野の狭さ。本作のオファーをいただいた当時は、由嘉里がもつそのバイタリティに胸を撃たれるものがあったのだと思います。撮影中、ライさんに屈託なく「いなくならないで」と伝えられる彼女のエネルギーに、飲み込まれそうになる瞬間もあって、苦しかったです。撮影期間中は由嘉里のことをあまり客観視できていなかったのかもしれません。

LANDOER:エネルギーが届かない『ライ』という存在は、異質な輝きと求心力を放っていますよね。板垣さんの瞳には『ライ』はどのように映っていましたか?
板垣:アサヒにとってのライは、歌舞伎町で出会った夜の世界の同業者だったので、お互い、その世界独特の“線引き”みたいなものを介して交流しているんだろうと思っていました。アサヒの職業である『ホスト』の解像度を高めるため、実際にホストクラブへ行って、キャストの皆さんにお話を伺ったのですが、ホスト同士にも不思議な境界線が存在しているそうで。ライとアサヒのあいだにも、ずっとその“境界線”が存在していたような気がします。
LANDOER:では『由嘉里』はいかがでしたか?
板垣:由嘉里に関しては、ライを通して見ることが多かったです。さきほど杉咲さんもおっしゃっていたように、由嘉里がもっているエネルギー熱量ってやっぱりすごいんです。ライに対してもそうですし、『ミート・イズ・マイン』に対してもとにかく熱くて。アサヒは、それほどのエネルギーを生み出せる由嘉里のことが眩しかったんですよね。“由嘉里とは違う熱量で生きている”という意味で、ライに近い立場から由嘉里を見ていたように思います。

「分かり合えない」は、決別じゃない
違うからこそ見えてくる、
“互いの輪郭”がきっとある——
LANDOER:本作には「大切な誰かと出会ったことで自分のなかに何か変化があったのならば、変化した場所にはその誰かが存在している」といった、大切な人との〈共生〉を思わせるメッセージが描かれていると感じました。この作品を通して、出逢いや別れ、人との交流について、お二人が考えたことがあれば教えてください。
杉咲:私は、私たちがいま生きている世界では、「相手に〈共感〉できるかどうか」が重要視されているように感じるのですが、この物語は、圧倒的に「分かり合えない」ところからスタートするんです。それでも登場人物たちを見ていると、たとえ〈共感〉はできなくても、大切な人のそばにいることはできるかもしれないと勇気づけられる。『ミーツ・ザ・ワールド』からは、そんな祈りのようなものを感じるんです。
LANDOER:「そばにいたい」「想い続ける」というのは、一見すると執着ととられがちですが、本作に描かれているように「誰かを想う才能」と考えると、人間に与えられた素敵なギフトのように感じますよね。板垣さんはいかがですか?
板垣:僕は “他者との関わり=圧倒的に自分と向き合うこと”なのかもしれないな、と考えていました。アサヒは由嘉里と向き合うことで、自分がいままでどう生きてきたか、そしてこれからどう生きていくのかを突きつけられるんです。これまで関わることのなかった(由嘉里のような)タイプの人との交流を通して、何か自分のなかに生まれるもの、変わっていくものがあるんじゃないか、そんな期待を抱いていたのだと思います。けれど、とあるシーンでアサヒが目を覚ましたとき、最初に視界に飛び込んできたのはホストクラブの仲間たちで。彼はその光景を見て、自分の居場所を再確認するんです。僕自身、アサヒという青年から「誰かと関わることは自分自身と向き合うこと」——それはまるで鏡を見ているような時間なのかもしれないと教えてもらいました。

Dear,LANDOER読者へ
お気に入りのシーン
From 杉咲花
私は、由嘉里とアサヒが大阪へ行ったときの帰り道のシーンが大好きです。アサヒって共感性が高いけれど、それをあまり表現しない人だと思っていて。気づいたら、なんだかピッタリ寄り添ってくれている人。そんなアサヒが、由嘉里が思い詰めていることに気づいて、まずい羊羹を口に放り込んでくれるところがすごく好きでした。
From 板垣李光人
僕は、大阪で由嘉里と一緒に焼肉を食べているシーンがすごく好きです。アサヒの目線から七輪越しに由嘉里を見ていたのですが、彼女が放つ強い愛情やまっすぐなエネルギーがとても眩しくて。それはもう、パーッと(笑)!ごはんをかきこんで、焼肉を頬張って―…。あのときのエネルギッシュな由嘉里の姿を、僕は忘れないと思います。


映画『ミーツ・ザ・ワールド』
2025年10月24日(金)公開
出演:杉咲花
南琴奈 板垣李光人
くるま(令和ロマン) 加藤千尋 和田光沙
安藤裕子 中山祐一朗 佐藤寛太
渋川清彦 筒井真理子 / 蒼井優
(劇中アニメ「ミート・イズ・マイン」)
村瀬歩 坂田将吾 阿座上洋平 田丸篤志
監督:松居大悟
原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫 刊)
脚本:國吉咲貴 松居大悟 音楽:クリープハイプ
主題歌:クリープハイプ「だからなんだって話」(ユニバーサルシグマ)
配給:クロックワークス

Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:宮本愛(yosine.)(杉咲)/
KATO(TRON)(板垣)
スタイリスト:山本マナ(杉咲)/
稲垣友斗(CEKAI)(板垣)
インタビュー・記事:満斗りょう
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