過ぎゆく時間に、漠然とした不安や焦りを抱くあなたへ

映画『秒速5センチメートル』

過ぎゆく時間に、漠然とした不安や
焦りを抱くあなたへ

映画『秒速5センチメートル』
©2025「秒速5センチメートル」製作委員会

-Introduction-

新海誠の劇場アニメーション『秒速5センチメートル』が実写映画になる。“新海ワールドの原点”との呼び声も高い『秒速5センチメートル』は公開から18年たった今も日本のみならず世界中で愛されている不朽の名作。本作は新海誠作品では初の実写化となる。実写映画の監督に並々ならぬ熱量で挑んだのは奥山由之。34歳の若さにして国内外から注目を集めている映像監督・写真家として、これまで「ポカリスエット」のコマーシャル映像や、米津玄師「感電」「KICK BACK」星野源「創造」のミュージックビデオを監督。2024 年公開の自主映画『アット・ザ・ベンチ』でも演出家としての手腕を評価された気鋭のクリエイター。本作は奥山由之監督にとって初の大型長編商業映画監督作となる。主演は松村北斗。新海誠が“最も信頼している”と評価する俳優・松村は新海誠監督作『すずめの戸締まり』で閉じ師・宗像草太役をつとめ、今年は坂元裕二の脚本・映画『ファーストキス 1ST KISS』でもその演技力が話題となるほか、名だたるクリエイターたちから信頼を得ている。本作が松村にとって初の単独主演映画となる。共演には高畑充希。是枝裕和監督『怪物』や李相日監督『国宝』など話題作への出演が続く実力派俳優である。その他、森七菜・青木柚・木竜麻生・宮﨑あおい・吉岡秀隆といった豪華俳優陣が集結した。主題歌は、米津玄師「1991」。1991 年は物語の主人公・遠野貴樹と転校生・篠原明里が出会った年であり、米津玄師の誕生年でもある。劇中歌には、原作でもお馴染みの、山崎まさよし「One more time, One more chance」。本作のためにリマスター版としてアップミックスされた。本作は、2024年から2025年にかけて四季をまたぎ、東京や種子島など全編をロケ撮影で制作された。「自らの中に残る“センチメンタル”をこの作品に全て置いていくつもりです」と意気込みを語る奥山由之監督による《奥山版『秒速5センチメートル』》が日本映画に新たな光を灯す。

-Story-

1991年、春。東京の小学校で出会った貴樹と明里は、互いの孤独にそっと手を差し伸べるようにして、少しずつ心を通わせていった。しかし、卒業と同時に、明里は引っ越してしまう。離れてからも、文通を重ねる二人。相手の言葉に触れるたび、たしかにつながっていると感じられた。中学一年の冬。吹雪の夜、栃木・岩舟で再会を果たした二人は、雪の中に立つ一本の桜の木の下で、最後の約束を交わす。「2009年3月26日、またここで会おう」
時は流れ、2008年。東京で働く貴樹は、人と深く関わらず、閉じた日々を送っていた。30歳を前にして、自分の一部が、遠い時間に取り残されたままだと気づきはじめる。そんな時にふと胸に浮かぶのは、色褪せない風景と、約束の日の予感。明里もまた、あの頃の想い出と共に、静かに日常を生きていた。18年という時を、異なる速さで歩んだ二人が、ひとつの記憶の場所へと向かっていく。
交わらなかった運命の先に、二人を隔てる距離と時間に、今も静かに漂うあの時の言葉。
――いつか、どこかで、あの人に届くことを願うように。大切な人との巡り合わせを描いた、淡く、静かな、約束の物語。

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

今や日本を代表するアニメ監督となった新海誠。彼の名を世に知らしめたのは、実質『君の名は。』(2016年)になるのだが、アニメファンやクリエイターの間では以前から注目されていたものの、特に『秒速5センチメートル』(2007年)の実際の世界を細やかに再現した映像や、山崎まさよしの名曲「One more time, One more chance」を効果的に使用し、主人公達の感情の代弁による手法が斬新だったことで話題となった。映画は、幼馴染みの少年少女が遠距離恋愛になり、離れた場所で成長していく中で、相手への想いを手紙で綴る3部構成の63分。

これを実写化するとなった時点で、何を描くのかが気になった。
アニメ映画の良さは、本心を伝えられないまま過ぎていく時間の流れや、登場人物の想いを行動で観客が読み取る余白あるストーリー構成だったように感じる。
今回、この企画に挑戦したのは、広瀬すずの写真集も手がけ、「GU」や「ポカリスエット」などのCMや、米津玄師や星野源などのMVで知られる奥山由之。前作『アット・ザ・ベンチ』(2024年)は、自主制作によるものだが、今までの実績から名だたる人気俳優が顔を揃えたオムニバス映画になっている。
そう考えると『秒速5センチメートル』を実写化する監督として、奥山由之は適任だった。アニメーションでは断片的に描かれていた小学生時代の二人の様子をしっかり映し出すことで、この二人がかけがえのない存在になっていくことが理解できる。だからこそ遠距離恋愛になった際に、電車を乗り継いで彼女に会いに行こうとするのだ。時代設定が1990年代だからメールも無いので、相手に遅延を伝えられない。ただし、物語の軸となるのは、社会人となった二人なので、彼らの記憶と想いを表現するかのように淡い映像の中で彼らが動いている。

実写映画で新たに描かれるのは、そんな彼らが社会人になり、どんな想いで過ごしながら大人になったのか。アニメ版でも社会人のシーンは描かれているが、あくまでもこの男女がどう未来を見ながら、個々に生きてきたのかを想像させる現在の状況描写のみだった。それを奥山監督は松村北斗と高畑充希の肉体を借りて、目まぐるしく変化する現代社会のスピードに乗れない青年の心の穴に目を向けて、彼の背中を優しく押すような作品へと昇華させていた。
もしかすると人の気持ちが分からないのは、自分の心ばかり見つめているからかもしれない。大切なのは目の前にいる人と、今、自分と関わろうとしている人なのかもしれない。桜の花びらが落ちるのをじっと見つめられる時間の大切さに気付かされるラブストーリーは、実は自分へ向けたラブレーターなんじゃないかな、と私は思う。

『秒速5センチメートル』
10月10日(金)全国公開

原作:新海誠 劇場アニメーション『秒速5センチメートル』
監督:奥山由之
脚本:鈴木史子
音楽:江﨑文武
主題歌:米津玄師「1991」
劇中歌:山崎まさよし
「One more time, One more chance 〜劇場用実写映画『秒速5センチメートル』Remaster〜」
出演:松村北斗 高畑充希
   森七菜 青木柚 木竜麻生
   上田悠斗 白山乃愛
   岡部たかし 中田青渚 田村健太郎
   戸塚純貴 蓮見翔
   又吉直樹 堀内敬子 佐藤緋美 白本彩奈
   宮﨑あおい 吉岡秀隆

映画『秒速5センチメートル』
©2025「秒速5センチメートル」製作委員会