自分に眠る〈闇〉と〈畏れ〉を覗き込もうとする貴方へ

映画『先生の白い嘘』

自分に眠る〈闇〉と〈畏れ〉を
覗き込もうとする貴方へ

映画『先生の白い嘘』
©2024「先生の白い嘘」製作委員会 ©鳥飼茜/講談社

-Introduction-

人の奥底に抱える醜さと美しさをエグる
2024年、最もセンセーショナルな映画が誕生

本作は、ひとりの女性が抱える「自らの性に対する矛盾した感情」や、男女間に存在する「性の格差」に向き合う姿を描くことで、人の根底にある醜さと美しさを映し出したヒューマンドラマだ。原作は、漫画の連載が開始されるや否や、その衝撃的な内容が口コミで広がり、累計部数 100 万部を突破した鳥飼茜の同名漫画。誰もが目を背けたくなるような歪んだ感情を、痛々しくもリアルに描き切った渾身の一作を禁断の実写映画化。主人公である高校教師・原美鈴を演じるのは、枠にとらわれない確かな演技力でいま最も注目を集めている実力派女優の奈緒。男女の「性差」を「格差」として振りかざす男性に対して、真正面から対峙する難役に挑み、圧倒的な演技で新境地を魅せる。ジェンダーのタブーに触れる繊細なテーマでありながら、美鈴という役柄に真摯に向き合った奈緒の渾身の演技は必見。美鈴が担任するクラスの男子生徒・新妻祐希を演じるのは、人気グループHiHi Jetsのメンバー・猪狩蒼弥。映画初単独出演ながら、物語の鍵を握る重要な役に大抜擢。強烈なトラウマを抱えた高校生という難しい役を見事に演じ切った。美鈴の親友・渕野美奈子を演じるのは、数々の話題作で唯一無二の存在感を放つ三吉彩花。地味で控えめな美鈴とは正反対で、男性に依存しながらも見栄を張り、表面を取り繕う美奈子という役で体当たりの妙演で魅せる。そして、美奈子の婚約者の早藤雅巳を演じるのは、風間俊介。早藤はエリートサラリーマンで人当たりも良く社交的だが、裏では女を見下して暴力をふるう猟奇的でサディスティックな二面性を持つ。これまで内面に闇を抱えた役を演じて注目されてきた風間だが、本作では過去に類を見ないほど狂気と憎しみに満ちた役柄で怪演を見せる。監督を務めるのは、『弱虫ペダル』(20)、『植物図鑑 運命の恋拾いました』(16)など数々の作品を手掛けるヒットメーカーの三木康一郎。脚本は、東京ドラマアウォード2019の優秀脚本賞として「透明なゆりかご」と「きのう何食べた?」をダブル受賞するなど数々の脚本賞を受賞するなど、高い評価を得続けている安達奈緒子。主題歌は、SNSを中心に絶えず注目を集め、現在の音楽シーンを象徴するアーティスト・yamaが本作のために作詞を手掛けた「独白」。美鈴をはじめとする登場人物達の心情に寄り添う楽曲が、作品の終わりに深い余韻を残す。

-Story-

傷つかないために見て見ぬふりをする、嘘をつく。
そうしないと、生きていられないから――

高校教師の原美鈴(奈緒)は、親友・美奈子(三吉彩花)の婚約者である早藤(風間俊介)との関係を隠しながら、教卓の高みから生徒達を見下ろし観察することで、密かに自尊心を満たしていた。しかし、平穏を装った彼女の日常は、自分が担任する男子生徒・新妻(猪狩蒼弥)の事件をきっかけに崩れ始める……

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice

観ている間も恐怖心を抱きながら観ずにはいられなかった映画。それが『先生の白い嘘』だ。人には言えない自分の性に関する秘密。それがとてもおぞましいものであり、止めるべきでありながら続けてしまう関係だとしたらどうだろう。本作はその行為そのものではなく本質を捉えながら人間の心の闇を覗き込む構成になっている。

主人公は女だからと性的搾取されてしまう社会に対し、怒りに震える高校教師・美鈴(奈緒)。確かに腕力でも男性には及ばず、性行為をした結果、妊娠するのも女性だ。映画は、押し殺すように隠した怒りの感情が、自身の生徒(猪狩蒼弥)が性の悩みを打ち明けたことで表面化していく様子を静かに綴っていく。

不思議なのは、親友・美奈子(三吉彩花)の婚約者・早藤(風間俊介)と何故、関係を続けるのかということ。それは暴力的で支配的な男性への恐怖心が一番だろうが、やがてそれだけではない複雑な感情が浮き彫りになっていくのだ。しかも早藤に対しては特に疑問で、何故、婚約者の親友に執着するのか、実はこれらが物語の鍵を握っている。

風間俊介の演技は圧倒的な力に満ちており、普段の穏やかそうな人柄とは真逆の人物を憑依したかのような威圧感ある演技で見せつけてくる。だからこそ美鈴は被害者であることが明らかなのに、自分の教え子に対しては優位な立場だからか、彼女の口から男性を責め立てる言葉が溢れ出す。この連鎖を映画として描くことで、性別への嫌悪が自身の私的な体験がきっかけとなっていることも見えてくるのだ。

原作は衝撃的な内容や描写で話題となった鳥飼茜のコミック。性的な描写を含め、実写化するにはハード過ぎるのではと懸念されていた。結果、完成した作品を観ると本当にギリギリのラインなのだ。映像にする上で描写の正確さではなく、言葉やショットで想像させる見事なアプローチ。演じている俳優達の表情の裏まで探りたくなる映画だった。

「女性らしさ」や「男性らしさ」という呪縛や、「女性は子供を産むことが幸せ」という言葉だったり、「男性は仕事で成功して一人前」という親や先人達からの刷り込みが、思考に影響を与えていることも綴っていた本作。果たしてこの考えを自分は全く持っていないと言い切れるのか。この作品への嫌悪感と共に好奇心は一体どこから来るのか。映画を観たことで自分自身の心の闇を覗くような結果になった。

映画『先生の白い嘘』
7月5日(金)全国劇場&3面ライブスクリーンにてロードショー

出演:奈緒
   猪狩蒼弥 三吉彩花
   田辺桃子 井上想良 小林涼子 森レイ子
   吉田宗洋 板谷由夏 ベンガル
   風間俊介
原作:鳥飼茜 「先生の白い嘘」(講談社「月刊モーニング・ツー」所載)
監督:三木康一郎 (『植物図鑑 運命の恋拾いました』『弱虫ペダル』『恋わずらいのエリー』)
脚本:安達奈緒子 (『劇場版 きのう何食べた?』「おかえりモネ」)
音楽:コトリンゴ
主題歌:yama 「独白」 (ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:松竹ODS事業室 / イノベーション推進部
映倫区分:R15

映画『先生の白い嘘』
©2024「先生の白い嘘」製作委員会
©鳥飼茜/講談社