「承認欲求・自己顕示欲」
そんな言葉に胸がザワつく貴方へ
-Introduction-
最狂の承認欲求モンスター、誕生。
A24とアリ・アスターに見出された新鋭
クリストファー・ボルグリ監督作
暴走する自己愛に、嫌悪と共鳴が止まない
“セルフラブ”メディケーション・ホラー
本作の製作を務めたのは、現代を生きる女性たちの心を掴んだ『わたしは最悪。』(22)が記憶に新しいオスロピクチャーズ。目を背けたくなるほどの破滅的な自己愛と承認欲求を描いた異色の“セルフラブ”ストーリーの怪作が誕生。少なからず誰もが持つ承認欲求を切り口に、何者にもなれない主人公が嘘や誇張を重ね、人に注目されるための「自分らしさ」を追い求めるあまりに自身を見失っていく様を、シニカルにそして極端なまでにコミカルに映し出す。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で絶賛されると、製作陣が“アンロマンティック・コメディ”と銘打っていたにも関わらず、上映後に「不吉で、浅ましく、サディスティック」などといったコメディにはそぐわないレビューが並んだことで話題を呼び、その後、欧米を中心に世界の映画祭を席巻。アメリカでは小規模公開に関わらずスマッシュヒットを記録し拡大上映されたことでも注目を集めた。脚本・監督を務めたクリストファー・ボルグリは、早くも次回作『DREAM SCENARIO』が A24 製作×ニコラス・ケイジ主演×『ミッドサマー』アリ・アスタープロデュースで製作されることが発表され話題を呼んでいる今後注目の新鋭。度が過ぎ滑稽なまでの自己顕示欲の塊・シグネを体現するのは、現在北欧を中心に話題作への出演作が続く注目の俳優クリスティン・クヤトゥ・ソープ。彼女の病的なまでの自己顕示欲はどこまで膨れ上がっていくのか。そして嫌悪を感じるほどに剥き出しで暴走する自己愛が彼女を誘う先にあるのは、幸福か、あるいは―。現代に巣食う羨望、嫉妬や欲望の「その先」を描いた寓話的ホラーが誕生した。
-SHORT STORY-
シグネの人生は行き詰まっていた。
長年、競争関係にあった恋人のトーマスがアーティストとして脚光を浴びると、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られたシグネは自身が注目される「自分らしさ」を手に入れるため、ある違法薬物に手を出す。薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はますますエスカレートしていき――。
伊藤さとり’s voice
「承認欲求」ほど露見すると嫌悪感を抱かれるのではないか。
しかも目立つことに関して、もしかしたら男性以上に女性の方が嫌悪感を抱かれてしまうのでは。その理由は「女性は男性を立て慎ましく」という家父長制を生んだ日本の民族性も影響を及ぼしているのかもしれない。そんな「見られたい」「注目されたい」も恥ずべきことではないし、それを持っているのも見方を変えれば人間らしさだよ、だけどほどほどにね、と伝える映画が登場。それがノルウェー映画『シック・オブ・マイセルフ』だ。
しかもあえて35mmフィルムで撮影したことでレトロな色合いが生まれ、そこにPOPなファッションに身を包んだカップルが姿を現すので、一瞬、センスが光るお洒落な作品ではと思ってしまう。けれどそのカップルの違和感ある会話に首を傾げ、しばらくして目にする衝撃の行動に仰天する。更に主人公の女性シグネのイメージには合わないクラシック音楽が流れる発想も斬新すぎて、彼女の感情が簡単には読み取れず、次から次へと予想が裏切られていく展開なのだ。そして彼女の承認欲求が膨れ上がった結果、ポスタービジュアルからはかけ離れた姿に観客は動揺を隠せなくなるだろう。
こんなにも悍ましくて大胆な脚本を書いたのは、ノルウェーの新人監督クリストファー・ボルグリ。しかも長編2作目となる本作は2022年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出され、ノルウェーのアカデミー賞と言えるアマンダ賞5部門ノミネート。ブルックリンホラーフィルムフェスティバルでは作品賞を受賞している。とはいえ、残虐なホラーではなく、人間の内面を描くホラー映画『シック・オブ・マイセルフ』。
だけど主人公シグネが何故、ここまで承認欲求に駆られてしまったのか。それはもしかしたら恋人が注目されることばかりに夢中で、自分に目を向けていないことで空虚感を覚えたのか、それとも恋人からの影響だったのか。
そもそも何故、目の前の人を見ずに携帯ばかり見るのか。なぜ、SNSに依存するのか。
「注目されたい」「見られたい」理由が、なんなのかをじっくり考えてみると自分の意外な闇に気づいてしまうかも。