忘れられない恋を抱いたままの貴方へ

映画『百花』

忘れられない恋を抱いたままの貴方へ

-映画『百花』-

映画『百花』
Ⓒ2022「百花」製作委員会

-Story-

遠くに行ってしまいそうな気がした。
あの時と、同じように――
親子とは? 愛とは? 人の記憶の正体とは?
記憶という謎に挑み、現代に新たな光を投げかける、
感動作が誕生する――

レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)と、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)。ふたりは、過去のある「事件」をきっかけに、互いの心の溝を埋められないまま過ごしてきた。そんな中、突然、百合子が不可解な言葉を発するようになる。「半分の花火が見たい・・・」それは、母が息子を忘れていく日々の始まりだった。認知症と診断され、次第にピアノも弾けなくなっていく百合子。やがて、泉の妻・香織(長澤まさみ)の名前さえ分からなくなってしまう。皮肉なことに、百合子が記憶を失うたびに、泉は母との思い出を蘇らせていく。そして、母子としての時間を取り戻すかのように、泉は母を支えていこうとする。だがある日、泉は百合子の部屋で一冊の「日記」を見つけてしまう。そこに綴られていたのは、泉が知らなかった母の「秘密」。あの「事件」の真相だった。母の記憶が消えゆくなか、泉は封印された記憶に手を伸ばす。一方、百合子は「半分の花火が見たい…」と繰り返しつぶやくようになる。「半分の花火」とはなにか?ふたりが「半分の花火」を目にして、その「謎」が解けたとき、息子は母の本当の愛を知ることとなる――― 。

伊藤さとり’s voice
伊藤さとり’s voice
LINE GIFT

「結婚したら子供を育て、良き親にならなければいけない」これはきっと大半の人の潜在意識にすり込まれている言葉であり、誰かに教えられたものではない。確かに人は、子どもを持った瞬間、女性(男性)から「人の親」になってしまいがちだ。けれど老いて物忘れが始まった時に、忘れられない恋に止まってしまうことだってある。

この映画は、そんな認知症を患い始めた母親の面倒を見る息子が、母親の記憶に鮮明に焼きついている自分の知らない男を通して、過去と向き合い未来を見つめる物語なのだ。

昔、大恋愛をし、今は認知症を患う母親・百合子を演じるのは、原田美枝子。その母親を献身的に支えながら封印していた過去に苦しむ主人公・泉を演じるのは菅田将暉。そして出産を控える泉の妻・香織には長澤まさみが扮し、ゆっくりと記憶の海を潜っていくように「人生とは?」を紐解いていく。

『モテキ』(2011)『君の名は。』(2016)他、ヒット作を多く生み出す名プロデューサーであり、脚本家、小説家でもある川村元気が、初長編映画監督を務める本作は、自身の原作を映画化したもの。小説は祖母との思い出を綴ったものであり、観客が登場人物の感情に寄り添いやすいよう1シーン1カットの手法をとっている。それは川村監督がガス・ヴァン・サント監督を好むことからも影響を及ぼしているそうだ。

映画を見てふと考えた。どんどんと思い出が消えて行っても、忘れたくても忘れられない禁断の恋は、脳に深く刻まれるものなのか?確かに人に言えない恋ほど、激しく求めあった恋ほど、時々、夢に現れる。もう終わった恋だと思っていても記憶の中には確実に存在している。忘れようとすればするほど、時折、脳裏に現れる過去の人。だって親になったところで、私達は変わらずにひとりの女性であり男性なのだから、もはや仕方がないのだと降参している。

映画『百花』
2022年9月9日(金)公開

出演:菅田将暉 原田美枝子 長澤まさみ/
   北村有起哉 岡山天音 河合優美 
  長塚圭史 板谷由夏 神野三鈴/永瀬正敏
監督:川村元気 脚本:平瀬謙太朗 川村元気

映画『百花』
Ⓒ2022「百花」製作委員会