自由にキュートに、
人生をとことん楽しみたい貴方へ
-Story-
原子力工学を学ぶ大学生のサロールは、怪我をしたクラスメイトから、彼女が働けない間の代理としてアダルトグッズ・ショップのアルバイトの話を持ち掛けられる。とくべつ仲の良い友だちではなかったが、高給なうえに簡単な仕事だと説かれ、一ヶ月だけ働くことに。 そこは、大人のオモチャが所狭しと並ぶ、街角のビルの半地下にある怪しげなショップ。友達へのプレゼントにとグッズを吟味する女性や、友人同士で訪れる客、人目を気にしながら一人で来店する客もいれば、グッズのデリバリーを頼むお客も少なくない。ショップのオーナーはカティアという、高級フラットに独りで暮らす謎多き女性。彼女のもとに、一日の終わりに売上金を届けに通ううち、二人の間に不思議な友情が芽生えていく。カティアはどうやら昔はバレリーナとして有名だったらしく、人生の苦難や試練を数多く乗り越えてきたようで、サロールを色々な所へ連れ出していく。ショップのお客やカティアと交流する中で、しだいに自分らしく生きていく道を考えるようになるサロールだが、あるお客とのトラブルでカティアに不信感を抱き…。
伊藤さとり’s voice
「自分の靴を眺めているうちに人生に置いていかれるわよ」
これはアダルトグッズ・ショップのオーナーである中年女性のカティアが、女子大生のサロールに言ったセリフ。モンゴル映画『セールス・ガールの考現学』は、大人しく真面目な大学生サロールがひょんなことからアダルトグッズ・ショップのアルバイトをすることになり、大人の世界を覗き見するうちに、自分らしく生きることを考え始める物語だ。
その刺激的な場所柄で、セクシャルなシーンが多いのではと想像してしまうかもしれないがそうではない。一見、純粋そうなサロールは「流されやすい性格」ではなく、客観的に物事を見つめ分析する女の子であり、そこは原子力工学を専攻する設定がスパイスを効かせている。まさに“興味はあるけれど危ない橋は渡らない冷静沈着さ”が、若い主人公の危うさや激しさを描くタイプの作品とは違い、冷静に彼女の心の変化と行く末を見られるので、観る人の年齢を選ばない映画なのだ。
しかも彼女が目にする大人の世界は刺激が強め。大人のずるさや弱さ、孤独を知る中で、サロールは、人生の先輩カティアから社会の波に飲まれないよう生きていく術を教わっていく。そんなカティアからの教訓は“今を大切に生きろ”というもの。焦らずに今しか出来ないことに目を向けることの大切さを言葉でも示す。
「早すぎる成功は考えものね。若さを犠牲にするから」
ビビットな色彩とモンゴルの人気シンガーソングライター、ドゥルグーン・バヤスガランの柔らかな歌声が映画を何色にも染めていく。何もせずに過ごしていたら得られるはずの喜びは通り過ぎて行くし、先のことばかり考えていたら人生を味わえない。今、目の前にいる人との関係を大切に、目の前に訪れたミッションに挑んでみる。それが「人生に置いていかれないように生きる術」だと映画は語っているようだった。