パルコ・プロデュース2025
『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』
6年ぶりに飛び込んだのは
現実と非現実が混じり合う〝生きた劇場〟
劇場という空間に、どうして人はあんなにも心惹かれるのだろう。人と人が、物語、温度、息遣いを共有したとき、客席と舞台で隔てられた〈現実〉と〈非現実〉とが混ざり合い、劇場がひとつの世界となる。二度と存在しない〝生きた世界〟を浴びたくて、私たちは劇場に足を運ぶ。さて、そんな劇場の舞台へと6年ぶりに飛び込み、昭和30年代の映画世界を生きることとなった芳根さん。日本映画界の巨匠・小津安二郎監督に紐づく映画、演劇、幻想···いくつもの虚構が舞台上で混ざり合う瞬間を前に、彼女が想うこととは――?
パルコ・プロデュース2025
『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』

-Introduction-
<映画>という<虚構>をつくる者の現実と回想と幻想を、
映画監督・行定勲が<演劇>という<虚構>であぶりだす!
本企画は、映画監督としての活躍にとどまらず舞台でも評価の高い行定勲が、ドラマ、映画、声優とジャンルを 問わず活躍し、舞台にも意欲的に取り組み各方面から高い評価を集め続ける中井貴一に、「ぜひ、昭和の映画界の話を演劇作品にしたい」と熱烈オファーを出したところから始まりました。2015 年「趣味の部屋」(PARCO 劇場)以来、10 年ぶりに舞台作品で最強タッグが復活します。映画、舞台を縦横無尽に行き来する二人が贈る本作は、実在の映画監督のエピソードから着想を得たフィクション。のちの世で巨匠と呼ばれるようになった映画監督、“先生” の撮影所でのとある一日を描きます。 脚本を手掛けるのは、温かみのある喜劇的な視点で登場人物を描くことに定評のある劇作家の鈴木聡。無類の映画好きで映画にも造詣が深い鈴木が、古き良き映画界に、そして日本中に、たしかにあった豊かな時間を舞台上に 紡ぎ出します。
-Story-
昭和と映画を愛するすべての人へ。
苦悩する名匠の一日をユーモアと味わいたっぷりに描く。
昭和30年代。テレビ時代を迎え、映画はその黄金期を終えつつあった。「先生」と呼ばれる日本映画界の名匠・小田昌二郎(中井貴一)は新作の撮影を始めたが調子が出ない。娘のように可愛がる食堂の看板娘・幸子(芳根京子)の婚約の報告を受けさらに撮影を引き延ばす小田。脚本家の野崎(升毅)や名女優・谷葉子(柚希礼音)も心配顔だ。皆の前では粋な振る舞いをする小田だったが内心は混乱していた。もう齢だ。健康が優れない。これが最後の一本になるかもしれない。その恐れが小田の心の中から関わりのあった女たちの幻を引き出す。元芸者・花江(キムラ緑子)、戦争未亡人・和美(土居志央梨)、銀座のホステス・千代(藤谷理子)。いつしか小田自身も記憶の中に引きずり込まれて……。
あの頃の映画はこうだった。あの頃の人間はこうだった。昭和の洒脱な大人たちから現代への素敵なメッセージ。
-幸子-
「先生」と呼ばれる日本映画界の名匠・
小田昌二郎(中井貴一)が、
娘のように可愛がる食堂の看板娘。
パルコプロデュース・2025
『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』
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芳根京子
6年前に出演させていただいた舞台経験がとても濃密で、“やり切った感覚”が長く続いていたのですが、2年くらい前から「また舞台に挑戦したい」という想いが強くなっていたんです。というのも、正直まだ自分が舞台を好きか嫌いか、得意か不得意かもはっきりとは分かっていなかったので、とにかくチャレンジを重ねて経験を積んでいかなきゃ、という想いがずっとあって。期間が開けば開くほどプレッシャーが大きくなってしまうことを考えると「そろそろかも」と思い、マネージャーさんとも「素敵な作品のお話があれば是非」とお話ししていた矢先に、今回の舞台のお話をいただいたんです。主演が中井貴一さん、演出が行定勲監督、さらには共演者に6年前の舞台で母娘役としてご一緒させていただいたキムラ緑子さんもいらっしゃるとお聞きして「安心して飛び込める!」と思い、挑戦を決めました。
6年ぶりの挑戦、ワクワクドキドキですね!
台本を読んだ率直な感想を聞かせてください。
中井さんと2人のシーンがたくさんあるので、純粋に「とにかく楽しみだな」と思いました。映画やドラマなどの映像作品では過ごせない、舞台ならではの時間をこれから過ごせると思うと、お稽古期間も含めてすごくワクワクするな、と。今回はタイプの違う女性が5人も出てくるので、舞台上でどんなバランスになるのか、どう世界が広がってゆくのかも、とても楽しみです!とはいえ、緊張もしていて「お稽古ってどういうふうにはじまるんだっけ?」と、前回のことを思い出してみたり…(笑)。舞台に出演するのは本作が3作目ですが、初心を忘れず、しっかりと先輩方の背中を追いかけていきたいと思います。

演出を担当されるのは、行定勲監督。
今作で初めてご一緒されるかと思いますが、
心境はいかがですか?
行定監督の映画は、女性が美しく描かれている作品が多い印象なので、今回登場する5人の女性にどのような演出がなされていくのか楽しみです。今回、監督が演出をしてくださるというのも、本作に挑戦したいと思った決め手のひとつで。お稽古、そして千穐楽までの間にたくさんコミュニケーションをとらせていただきたいと思っています。監督とご一緒するにあたり、いろいろな先輩方にお話を伺ったのですが、舞台でご一緒されたことのある方がいらっしゃらず…。「どんな現場になるんだろう」と緊張していたところに、いまドラマで共演している高橋努さんから「一緒に作品はやったことないけど、よく飲むんだよね!」という情報をいただいて(笑)。すごくやさしい方だと教えていただいたので、少し安心しています。
本作に限らず、
監督や演出の方とコミュニケーションをとるうえで
大切にしていることはありますか?
分からないことやモヤモヤが残らないようにたくさんお話を聞くことと、作品以外のお話もさせていただきながら、私がどんな人間なのかを知っていただくことを大切にしています。もともと器用なタイプではないので、私の不器用さを理解していただいたうえで演出を伝えてくださると安心しますし、私もコミュニケーションを通して監督を知ることができるので「この演出にはこういう意味があるんだろう」と、察しやすくなるんです。だからこそ、私にとってはなんでもない空き時間に作品以外のお話をして、お互いのことを知ってゆくことがとても大切で。今回も舞台期間の間に、行定監督やキャストの方とどんなコミュニケーションをとれるのか楽しみにしています。

何気ない会話から信頼関係も生まれていきますよね!
「先生」役の中井さんとは
コミュニケーションを取られましたか?
お互いのドラマのスタジオが近かったので、お伺いしてご挨拶させていただいたのですが、そのときにとてもやさしく「本当に身体が大切だから、体調にだけは気をつけてね」と、言葉をかけてくださって。つい先日もお会いして「お疲れさまです」とご挨拶をしたら、ニコニコと手を振ってくださいました。お稽古の前にこうしてお会いすることができて嬉しいです。
エピソードからおふたりのお人柄が伝わってきます。
先ほど「2人のシーンがたくさんあって楽しみ」と
おっしゃっていましたが、
現時点で楽しみにされていること、
大切にしたいと思っていることはありますか?
今作にはあたたかいシーンが多いので“ぬくもり”を大切にしたいですし、そのぬくもりを受けて私自身の心がどう変化していくのか、とても楽しみです。いま、ひとりで台本を読んで想像している「こんなふうになっていくのかな」というイメージが、その瞬間の空気によってどんなふうに裏切られるのか、いまからワクワクしています。最近南部鉄器にハマっているのですが、南部鉄器ってどんどん色が変わっていったり、使っていくうちに味が出てきたりするんです。その美しさや変化の楽しさは、舞台の演劇にも通ずるような気がしていて。南部鉄器のように大切に育てていきたいと思っているところです。
舞台だからこそ伝わるぬくもりと変化、
楽しみにしています!
芳根さん演じる幸子は、
中井さんのお母様がモデルとなっていますが、
幸子について中井さんに聞いてみたいことはありますか?
実はそれ、つい30分前に知ったんです(笑)!「えぇ、そうだったの!」って。まさか中井さんの身近な方がモデルになっているとは思っていなかったので、とにかく中井さんが嫌な気持ちにならないよう、精一杯努めなきゃならないというプレッシャーが出てきた一方で、「何をお聞きすればいいんだろう」と困惑しています(笑)。今後、お稽古が進むにつれて中井さんに直接お伺いすることも出てくると思いますが、まずは中井さんとのコミュニケーションを大切にしながら、答えをいただくより先に感じ取って掬い上げていけたらいいな、と思っています。1ヶ月の稽古期間があるからこそ、まずは自分で作ってみて、その先で伺ってみようかな、と。

芳根さんが中井さんのそばで築かれる幸子さん、
私たちもとても楽しみにしています。
「先生」こと小田は、
実在の映画監督・小津安二郎監督が
モデルになっていますが、
小津監督の映画を
これまでご覧になったことはありましたか?
本作への出演をきっかけに拝見しました。映画に関わらせていただいている身として、現代とは違う斬新な撮り方が面白いと感じましたし、時代ならではの色を知ることができてとても勉強になりました。何作品か見比べているうちに「チェックのカーテンが多いな」や「昭和ってこんなに可愛くておしゃれなんだ!」といった、こだわりの詰まった共通点も見つけられて。日常に寄り添って、日々の出来事を淡々と描かれている小津監督の作品を観ていると「時代が違えど人間ってそうだよな」と、人間の本質に気づかされるんです。
観るポイントがチャーミングで素敵です。
今回の作品にも、家屋でのシーンが登場しますよね。
昭和30年代の日常を
どのように演じたいと思われていますか?
朝ドラ『べっぴんさん』(2016)で昭和元年生まれのヒロインの10代から60代くらいまでを演じさせていただいたことがあるので、勝手に知っている世界のように感じていて。一度昭和元年生まれの一生を経験しているからこそ、昭和何年と聞くと「あぁ、あの時代だな」と風景を思い浮かべられるんです。「あのときは何をすることが幸せだったかな」「あの頃はどんな時間の流れだったかな」と思い出しながら、昭和37年という時代を楽しみたいと思っています。加えて、ちょうどいま昭和を舞台にしたドラマの撮影をしているので、「今年の上半期は令和にいないわ!」と思いながら、昭和という時代を目一杯楽しむ期間にしたいと思っています(笑)。

先生を取り巻く、
パワフルな女性キャラクターたちも魅力的です。
共演者の方々の印象はいかがですか?
とにかく(キムラ)緑子さんがいらっしゃることが嬉しくて嬉しくて…!人見知りなので、初めましての皆さんとはやく打ち解けられるように頑張りたいと思いつつ、「でも緑子さんがいるから大丈夫!」と思っています(笑)。本当の家族のように仲良くしていただいている方とまたご一緒できるというのは、このお仕事ならでは。改めて、不思議で素敵なお仕事だなと感じています。最近は、現場で年下の方が増えていって「頑張らなきゃ!」と力が入っていた部分があったので、今回の現場では、共演の皆さんに甘えさせてもらいながら、穏やかに楽しく向き合っていきたいです。
久しぶりの舞台作品。
ドラマや映画の活躍を経て改めて感じる、
舞台の魅力や意気込みを教えてください。
観客として劇場に足を運び、舞台ならではの空気を感じる度に、「もう一度舞台に立ちたい」と思っていたのですが、改めて久しぶりに舞台へ出演することが決まったいま、この劇場に入って「わぁ、私ここに立つのね…!」と思ったら、まだ実感が湧かずポワポワとした感覚になっています…(笑)。せっかく舞台に飛び込ませてもらうからには、その日その日に起こることをちゃんと受けとめて、刺激を受ける毎日を送りたいと思っています。前回の舞台の際は、〈生〉だからこそ生じる違いを楽しむ余裕がなく、とにかく毎日やり切ることが目標になってしまっていて…。初日を迎えるときにも、先輩方に「こんな感じで初日迎えるんですか?私無理かもしれません!」と言っていた気がするんです(笑)。今回は前回よりお稽古の時間も少し長いので、心に余裕をもって楽しめたらいいなと思っています。不安な気持ちなく舞台に立って、成長した姿を皆さんにお見せできるよう頑張ります!

舞台作品に関わらず、
お芝居をしていて共演者の方から刺激を受けたり、
印象に残ったりしているエピソードはありますか?
映画『ファーストラブ』(2021)で堤幸彦監督とご一緒させていただいたときに、主演の北川景子さんとのツーショットの撮影で、私が段取りの段階でテーブルに水が溜まるくらいぶわぁーっと泣いてしまったことがあって。あまりにも泣きすぎてしまったので、本番で同じ演技をやるのは難しいと思い、監督に「無理かもしれません」と伝えにいったんです。そうしたら「もうカット割り消しちゃったよ」と言われてしまって。「本番、1回ずつで終わらせるから、いまと同じ演技をやって!」と。正直とても不安だったのですが、いざ北川さんと対峙したら、心配する必要なんてないほど段取りのときと同じ感情になることができたんです。そのときに、「そうか、お芝居ってひとりでやるものじゃないんだ」と強く実感して。極限状態の緊張のなかでも、自然とレールに乗せられたような感覚でお芝居ができたことが、いまでも印象に残っています。そのシーンが終わった後、翌日誕生日だった堤監督に「最高の誕生日プレゼントをありがとう」と言っていただけたことも嬉しかった思い出です。改めて「お芝居って楽しいな、頑張りたいな」と思えました。ありのままの私はめちゃくちゃ緊張しいでビビりなのですが、信頼して求めていただいたことには120%で返せるよう、頑張っていきたいと思います。
Dear LANDOER読者
パルコ・プロデュース2025
『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』
From 芳根京子
稽古はこれからですが(取材は4月)、なんだか「絶対に楽しい作品になる!」という自信があります。中井さんが真ん中にいらっしゃって、たくさんの女性が出てきて、現実と想像の世界がリンクしながら進んでゆく。そんな、舞台ならではの面白さが詰まった作品になるんじゃないかと思っているので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。私個人としては、6年ぶりの舞台。私をずっと応援してくださっている方のなかには「この人もう舞台はやらないんじゃないか?」と思っていた方もいらっしゃるかと思いますが、久しぶりの舞台、応援していただけたら嬉しいです!


パルコ・プロデュース2025
『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』
東京:PARCO劇場
2025年6月8日(日)〜29日(日)
大阪:森ノ宮ピロティホール
2025年7月5日(土)~7日(月)
福岡:J:COM 北九州芸術劇場 大ホール
2025年7 月 11日(金)・12日(土)
熊本:市民会館シアーズホーム 夢ホール
2025年7月 15日(火)
愛知:東海市芸術劇場 大ホール
2025年7月19日(土)・20日(日)
作:鈴木聡
演出:行定勲
出演:中井貴一 芳根京子 柚希礼音 土居志央梨
藤谷理子 升毅 キムラ緑子 ほか
ハッシュタグ #先生の背中
Item Credit
セットアップ¥28,600
インナー¥14,300/ともにAmeri(AMERI VINTAGE)
その他/スタイリスト私物
・ブランド AMERI
・お問い合わせ先 AMERI VINTAGE 03-6712-7965
Staff Credit
カメラマン:堀内彩香
ヘアメイク:猪股真衣子(TRON)
スタイリスト:杉本学子(WHITNEY)
インタビュー:満斗りょう
記事:Suzu、満斗りょう
ページデザイン:Mo.et