舞台『冬のライオン』
作中に生きるライオンたちの
静かなる闘志を目に焼き付けて
人の本心がうごめくところには、必ず風が吹く。そしてそれは本心の数が多いほどだんだんと吹雪いてくる。身を刺すような寒さの中、それぞれの本心が冬空の下にさらされる時、私たちは時代を超えてどんな〈人間味〉を目撃することになるのか。作中に生きる人物たちを「清々しい」と語った水田さん。決して綺麗な枠に収まることはない、自身の欲に誠実で、愛に愚直な〈人間味〉が入り乱れるクリスマス。きっと孤高のライオンは一匹じゃない――
舞台『冬のライオン』
-あらすじ-
イングランドの初代国王ヘンリー二世(佐々木蔵之介)は、数重なる戦果で領土を広げてきた。広大な領地アキテーヌを持つ年上の妻・エレノア(高畑淳子)は、何度も反旗を翻したため、幽閉されている。人質として育てられてきた先代フランス王の娘アレー(葵わかな)は、今や美しく成人し、ヘンリーの愛妾となっている。そしてアレーの異母きょうだいである現フランス王フィリップ(水田航生)がついに迫る。『領土を返還するか、アレーをヘンリーの後継者と結婚させるか、選ぶ年限が来た』と。いよいよ相続のけりをつけねばならない。1183年のクリスマス、一同はシノン城に集まる。リチャード(加藤和樹)に王位を譲ってアレーとも結婚させるようにというエレノアの嘆願。ヘンリーはかわいい三男のジョン(浅利陽介)に引き継がせたいと思っているが、エレノアの言い分を受け入れ、今すぐアレーとリチャードの結婚式を挙げることになってしまう。次男のジェフリー(永島敬三)は、ジョンを抱き込んで、父親を倒すためにフィリップの協力を得ようと、ひそかに部屋を訪ねる。すると、母エレノアから送られたリチャードもフィリップの部屋へやってくる。ジェフリーとジョンが隠れているとも知らず、リチャードはうっかり口を滑らせたことで、兄弟たちを驚かせる。そこへさらに、ヘンリー本人が、フィリップに取引を持ち掛けようと企んで現れる。息子たちの不実さ、強欲さを思い知らされたヘンリーは、全く違う方向へと舵を切ることを決断。果たして、親子の、夫婦の、妻と愛妾の、イングランド王とフランス王の対決の決着はいかに…。
-フィリップ-
アレーの異母きょうだいでフランス王
『冬のライオン』× 水田航生
佐々木蔵之介さんをはじめとする素晴らしい共演者の皆様の中でやっていくこと、演出の森(新太郎)さんとの初めての作品だということで、僕自身にとっても大きな挑戦になる作品だと思っています。森さんとご一緒したことのある俳優友達から愛のある厳しい方だという話は聞いているので、いまの自分でどのくらい立ち向かっていけるのかという楽しみもあります。
フィリップ × 水田航生
フィリップは実在した人物なので、僕が演じる彼の人生の一部だけでなく、生まれてからどんな夢に感情を揺らがせて、どんな環境に揉まれて生きてきた人間なのかをしっかりと調べて役に挑みたいと思っています。中世、戦時中に若い年齢で王となり、国の核として狡猾でいなければならなかった…きっとそこには僕には想像もできない葛藤があったでしょうし、複雑な想いも抱えていたと思います。その葛藤が『冬のライオン』の作中でどう描かれるのか、静かな彼の闘志を演じられることがいまから楽しみです。一方で、一国の王として生きた彼の想いが僕に理解できるのか少し怖くもあります。
1966年に初演された作品。
登場するのは実在した人物ですし、
セリフの言いまわしなどが難しいのかな?
と思ったのですが…
僕も最初はそう構えていたんですけど、台本を読んでみたら現代に近い言い回しで馴染みのある言葉が多いと感じました。もちろん、歴史上に実在した人たちを描いている作品なので史実的に描かれている部分もあるんですけど、基本的には史実というより現代にも共通する家族観や人間同士の愛を描いている部分が多いので、歴史を知らなくても楽しんでいただける作品だと思います。
史実とヒューマンドラマが
バランス良く描かれているんですね。
そうですね。あらすじ上では複雑な王位継承の話として書かれているんですけど、感情的な部分で考えると、人間のとてもシンプルな部分がぶつかり合っている作品なんです。正直いうと個人的には、現代のほうがオブラートに言葉を包んだり、見えないところでいろんな感情が渦巻いていたりとややこしいことが多い気がしていて。それに比べて『冬のライオン』の作中に生きている人たちは、自分の欲望に対して素直なんです。その欲を叶えるために動いていく姿が僕は清々しく感じました。
先ほども仰っていたように、
演出家の森さんは
「愛あるムチ」の方だとお伺いしています。
水田さんはもう、森さんとはお話されましたか?
まだお会いできていなくて、本当にドキドキ期間です(笑)。僕の周りに森さんとご一緒したことのある方が多いんですけど、その方たちも「“愛あるムチ”をくださる方だよ」と仰っていて。僕がいままで出逢った“愛あるムチ”を頂いた演出家さんで一番記憶にあるのが『マーキュリー・ファー Mercury Fur』(2015)でご一緒した白井晃さんなんですが、その時は泣きながら「嫌だ!」と思うくらい本当に厳しかったんです。「演技って難しいな」と感じた稽古場ナンバーワンが白井さんの稽古場で。で、そんな白井さんがこの間チラッと「俺よりも厳しい演出家は森新太郎だ」と仰っているのをお聞きしたんです。それを聞いて「え?」って(笑)。僕が“愛あるムチ”を頂いた白井さんが認めるほどの方だとドキドキしています。
ドキドキしつつもワクワク?
そうですね。ある意味ドM心で「いまの僕をコテンパンにしてください」と言う気持ちもあります。ビビッて何もできないよりは、自分にやれることをしっかりと考えてどうにか食らいついていこうと心の準備をしているところです。
様々な舞台に立たれている水田さんですが、
生きる時代や国が違う役を演じる時の
自身の中での意識の変化は何かありますか?
共通して「これを変えよう!」という具体的なことはないんですけど、役のパーソナリティーを考えて意識する部分はもちろんあります。例えば王の役だとしたら「王はこう座らないな」や「こんな風には立たないな」などの動作的な部分は意識していますね。心の面に関しては「水田航生が感じるものと、その役が感じるものの近い部分って何だろうな」と考えて、“自分が演じる意味”を追求するようにしています。例えば「役が悲しい想いをした時に、水田航生だったらどんな悲しみ方をするのか」と一度自分を通して考えると、役がどんな時代でどんな立場の人だったとしても僕の演じる意味がある表現になるんじゃないかと思うんです。
役を通して新たな感情に出会うことも?
あります。自分の経験したことのないこととか。例えば、僕は人を殺したこともなければ死んだこともないので、そういった役の時は想像でしか役に近づいていけないんです。想像力を働かせて理解できるところまで自分が踏み込む、みたいな。想像でどこまでその人に寄り添っていけるかが大事だと思うんですよね。それって人と人の付き合いでも同じだと思っていて。他人のことを分かりきることは絶対にできないけれど、分かろうと努力することはお互いに絶対できるじゃないですか。その姿勢が僕の場合は役に対しての姿勢でもあるんです。とはいえ、役側が近づいてきてくれたことはいまだかつてないんですけど…(笑)。常に追いかけています(笑)。役に対して探求心を持ち続けていると、どんなにクズな役でも好きになっちゃうんですよ。「一番の味方でいるよ!」って(笑)。
Dear
LANDOER読者 about『冬のライオン』
この濃密な戯曲の中に、先ほども言ったように現代に生きている人間にも共通する欲望や愛、葛藤が分かりやすく面白味をもって描かれています。むしろ、作中の時代だからこそ描けるシンプルさがあるんじゃないかな、と。そういった部分に注目して、人と人の汚い部分から見えてくる美しさを感じていただけたら嬉しいです。個人的なことでいうと、僕は『第1回アミューズ王子様オーディション』(2005)のグランプリを獲ってこの世界に入ったので「ついに王子が王になるよ」と!今回はこれを意識していこうと思っています(笑)。水田航生が王になっていく姿を、是非とも楽しみにしていただければと思います。
Staff Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:永瀬多壱(Vanites)
スタイリスト:山本隆司(style3)
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:吉田彩華